sleet 1 【Y】 ページ1
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「それは何に対して？」
無くなりかけの歯磨き粉のように、背中を小さく丸め込み、ようやっと私が絞り出した「ごめんなさい」の言葉に、冷静かつ、冷淡な質問が渉から返された。
「えっと…、だから…、怒らせてごめ」
「なんっだそれ」
渉がついた意味深なため息は、私をほの暗い洞窟の奥へと押し込めた。
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幼なじみだった渉と、高校卒業を機に付き合い始めて早五年。
当初はお互い一人暮らしをしていたけど、気づけばほぼ渉の家にいる毎日を過ごしていた私に、アパートの更新連絡がやってきた。
家賃の半分も活用していないような無駄部屋ではあったけど、解約するとなると、いろいろと事情は変わってくる。
また二年、倉庫でも借りるような心持ちで更新料をかき集める私に向かって、事も無げに放たれた渉の事務的な台詞。
" 更新料金もったいなくね？ "
極貧生活を強いられていた私にとっては、嬉しいなんて気持ちは二の次で、有り難いと心底思い始まった同棲生活も、かれこれもう三年になる今。
幼なじみってこともあってか、暑苦しいほどのラブラブ期こそなかったかもしれないけど、それなりに楽しくやってきたつもりだったけど…
何やら最近、渉の機嫌がすこぶる悪い。
" は！？何それ "
" 浴衣ー "
" 着んの？ "
" 当たり前じゃん！花火大会、屋形舟にしたのー！渉仕事でしょ？遥と行ってきまーす "
" ふぅ〜ん………… "
今日だって、浴衣着付けて髪を結い、準備整える私に無言の圧をかけ続けてくる始末。
屈しないよう気づかぬそぶりを続け、屋形舟で夜空に咲く花火を堪能した後、恐る恐るアパートへと戻れば、そこには案の定、怖い顔をした渉が切腹前の武士のように座って待っていた。
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最近なんなの？
ものっそい感じ悪いんですけど
そう言いたい気持ちぐっと堪えて、再び渉に謝ったにも関わらず、
「だからさ、何にごめんなわけ？いったい誰に？」
全く響いてないし
納得せずに放っている(放ってあげている)謝罪を受け入れない渉への苛立ちが、鍾乳石のように形づくられていくのに、長い歳月なんて必要もなかった。
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作者名：ななは | 作成日時：2018年7月28日 1時
