わが思ふ人の我を思はぬ (ページ25)

今日:1 hit、昨日:3 hit、合計:43,233 hit

２５ページ25

「ここからは言い訳になるのですが、吉岡はあなたの事、相当心配しておりました。
少しでも、この妬みの対象があなたから動くようにとここに来ることも控え、このような万が一のことが起きた場合にもなんとかできるように、私にこことこの男の監視を命じておりました。」

「廉、が…」

「どうか、あの人のこと許してやってはくれませんか？」

そう、頭が畳につくんやないかと思うほど深く腰を折る福本さん。

「福本さん…あなたは悪くないです。

それに、あなたがおらんかったら私はどうなっていたか…！」

その言葉に楼主も姿勢を変える。

「ほんまにAのこと助けていただきありがとうございます。
今回のことだけで、長年ご贔屓にして頂いとるのに縁を切らせてもらうなんてことはいたしません。」

「ほんまですか。ありがとうございます。」

けど、これから…

「私は、廉に会えますか…？」

その言葉に、福本さんは首を振り、それを見た楼主は渋い顔をした。

「吉岡は当分あなたに会うつもりは、ないみたいです。」

「なんですかそれ…」

「えっ？」

この人は、全てを知ってて、私に優しくした？
そうしろって、そうやってなだめろって、廉に指示された？
それとも

「さっきのあれは、同情やったんですか…。、」

福本さんがどう思ってるのかわからない

けど、私は感情を抑えることが出来なくて、ただ目の前の畳を睨みつけながら続ける。

「私のこと、哀れやと笑っとったんですか？」

「A、やめなさい。」

「Aさん、私は

「吉岡様に、よろしくお伝えください。まだなにか話すことが、ございますか？」

帰るとき、一瞬だけ見えた福本さんの顔は、唇をかんでなにかに耐えているようで。

それが、私に対する怒りなのか、哀れなのか。

それとも、主人に対するものなのか、それは分からなかったけど

あぁ、この人もこんな顔するんだ、って前にも思ったようなことをまた思った。