37話 ページ39
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見えない。
もう、この先の未来が何ひとつとして見えなくなった。
私の前に塞がるのはただの闇。真っ暗なそれ。
私は、何のために、この世界に来た?
何故、原作の知識を持ってこの世界に飛ばされた?
救え。そのために、私の力と知識がある。
そう、思っていたのに。
「なんてことはない2級呪霊の討伐任務のハズだったのに…!!」
扉の向こうから聞こえる七海の声に、体が動かなかった。
知っている。あれは土地神で1級案件だった。
2人が任務に行く前日も、当日も、私は高専に居たのに。もっとなにか出来たんじゃないかって、後悔するのは1年前の天内理子護衛任務で最後にすると決めていたのに。
結局私は、誰も救えなかった。この先も、きっと。
「……邪魔するぞ」
そっと扉を開いた先に居たのは、窶れた夏油と包帯で目元を覆った七海。
そして、白い布を被せられた灰原の、死体。
「…任務じゃなかったのか」
「…昨日から、任務は入ってなかった」
私の言葉に、悔しそうに「じゃあ、」と口を開いた夏油は、結局何も言わずに閉口した。
私を、気遣って。
でもそんな気遣いは今の私にとって意味のあるものでは無い。
それ以上に、そこで言葉を切るのは逆効果だろう。
「貴方が、行けば良かったんですよ」
七海からすれば、私は灰原の仇と同等だろうから。
「最初から、あなたが行っていればこんなことにはならなかった」
「七海、」
「もう、あなたとあの人、2人で良くないですか?」
パキッ。
小さく響いたその音は、私が床に落ちていた何かを踏んだ時に鳴ったものだったけれど、心が折れた音によく似ていると思った。
果たして、折れた心は誰のものか。
七海か、私か。
はたまた、夏油か。
「……………ごめん」
「A、」
「ゆっくり、休めよ」
謝ってはいけないと、分かっていたのにも関わらず零れ落ちてしまったそれを咎めるかのように呼ばれた私の名。
これ以上、七海を見ることも耐えきれなくて、夏油の声を聞くのも耐えられなくて、なんの呼び掛けにも応じることなく部屋を後にした。
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みたらし(元三日月) - 面白かったです!笑える所、ヒヤッとする所…最後にはやっぱり闇落ちしてしまうのかなんて思いましたが、夏油と夢主ちゃんの最後の会話で感動しました…でもやっぱり「最凶」なんだなーと…w夏油推しにはたまらない作品でした!他の作品、これからも応援してます! (2022年3月17日 15時) (レス) @page47 id: 122f030fb9 (このIDを非表示/違反報告)
わらび餅。(プロフ) - さわさん» さわさんコメントありがとうございます!助けられないかもしれない、と思わせてからのどんでん返しをしたかったので、それが伝わってとっても嬉しいです。応援もありがとうございます、頑張ります! (2021年9月6日 8時) (レス) id: b794bc2212 (このIDを非表示/違反報告)
さわ(プロフ) - 今更ながらコメント失礼します!夢主が原作は変えられないと気付いた所は本当に辛くて顔が歪んだのですが最後まで読み本当に嬉しくなりました。これからも頑張ってください! (2021年8月25日 19時) (レス) id: 2994709d1c (このIDを非表示/違反報告)
ミナこ餅 - 完結おめでとうございます。この作品は今まで見た中で1番面白いです。ちゃんと説明もついてますしなにより矛盾してる点などが無いので!これから他作品も見させて頂きたいと思っておりますが、頑張ってくださいね! (2021年5月9日 7時) (レス) id: 5b0fda8cd6 (このIDを非表示/違反報告)
わらび餅。(プロフ) - なな。さん» ななさん、最後まで読んでくださってありがとうございます〜!!戦闘シーンは大分キツくて何度も心が折れかけたのでそう言っていただけるととっても嬉しいです泣 これからも頑張ります、応援ありがとうございます!! (2021年3月6日 20時) (レス) id: b794bc2212 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:わらび餅。 | 作成日時:2021年2月6日 21時