第35話 ページ35
――――それは、2年前のことだった。
“天才子役”皇天馬の終わりとともに舞い込んできた“俳優”皇天馬のための仕事。
15歳になった皇天馬の代表作『ヒロイン』。高視聴率を記録したそのドラマのキャスティングのためのオーディション。
そこに、彼女はいた。
15歳の“女優”松岡Aが。
脚本、スタッフ、同じくオーディションを受けに来た女優達。
その誰もが息を呑み、ざわついた。“あの”松岡Aがいるのだ。今この場に。
長くテレビに姿を見せなかった彼女が、ついに戻ってくるのだ。
オーディション内容はたった一つの台詞だった。
そのドラマの最後を飾る、重要で単純な一言。
「『あなただけが、私のヒーローだよ』」
音が消えた。もう確信だった。
彼女から紡がれた言葉が、彼女の愛おしそうな顔が、彼女の眼が、まとう空気が物語っていた。
彼女はこの日をずっと待っていたのだ。
彼女は、他の誰でもないたった一人の――――“皇天馬”のヒロインになるために。
ここにいる誰よりも“ヒロイン”に相応しいのは彼女だった。
「今作のヒロイン、沖野真子役は桜乃プロダクション所属の前田鳴名さんでお願いします」
そう、信じて疑わなかった。
凍り付いたとある会議場の一室。
困惑したヒロインと政策サイド一同。
その中心で、目を細めて言葉をつづけるのは紛れもなくそのドラマの監督――――間宮一馬だった。
「どうしてですか!」
誰より早く声を上げたのは、ヒロイン自身だった。その目に浮かぶのは嬉し涙などではない。
それは悔し涙だった。彼女自身、負けたと思った一人だった。ヒロインはあの子だと。
なのに、呼ばれたのは自分の名前。納得できなかった。事務所の手回しだとさえ思った。
だってそれくらい、松岡Aしかいないと思ったから。
「それは、どういう意味ですか」
「ど、どういう意味も何も…私よりふさわしい人がいるじゃないですか!」
「ふさわしい人があなただと思ったから選んだんですよ」
「そんなはずない!誰もがそう思ってます…このドラマのヒロインは松岡さんでしょう!?」
硬直したままの松岡Aを一瞥して間宮が投げた言葉。
それが、ずっと彼女の身に巣食って離れない、呪いそのものだった。
「松岡さんはヒロインに相応しくない。――いや、こう言った方がいい。
彼女は、君は、“皇天馬”のヒロインにだけはなれない。
なぜなら誰も君に“皇天馬のヒロイン”を望まないからだ」
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春野さん(プロフ) - 完結おめでとうございます!タイトルからこんな風に繋がるとは思ってなくて、思わず涙が出ました。本当に素敵な作品だと思います。この作品に惹かれたのがきっかけで天馬最推しになった位(笑)次回作やアナザーストーリー、あれば期待しています、頑張ってください! (2018年8月31日 10時) (レス) id: 43b6e8fc40 (このIDを非表示/違反報告)
ゴム手袋(プロフ) - いいところで更新停止ー!!!めちゃくちゃいいとこでー!!!待ってますー!!!!! (2018年8月7日 10時) (レス) id: 2405ca442d (このIDを非表示/違反報告)
一華 顕音(プロフ) - 狂さん» コメントありがとうございます!嬉しいです…!頑張ります!! (2017年12月30日 16時) (レス) id: f13dd29270 (このIDを非表示/違反報告)
一華 顕音(プロフ) - Mareさん» コメントありがとうございます!更新できるように頑張りますね! (2017年12月30日 16時) (レス) id: f13dd29270 (このIDを非表示/違反報告)
狂(プロフ) - とても引き込まれました!頑張ってください! (2017年12月29日 11時) (レス) id: 4e15e8f7b9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:一華 顕音 | 作成日時:2017年12月7日 17時