安心できた ページ8
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あのときの違和感は、間違ってなかったみたいで。
おじさん毎日来るようになった。
きっとお仕事の合間に来てるんだと思うんだけど、まっすぐ私のとこ来るの。
「案内してほしいんだけど。」
いつもこれ。
お仕事だから断れない。
ユヨンさんが変わってくれようとしたら、この子に頼んでるんだけどって。
ご案内中、全身をじろじろ見てくる視線。
全然、慣れない。
お店に着いたら、ありがとうね、お礼は言ってくれるんだけど…必ず質問してくるの。
「通勤はどうしてるの?」
最初はたわいない質問だった。
でも、だんだんエスカレートし始めてる。
彼氏いるの?
いつからいないの?
どういう男がタイプなの?
テキトーに答えてるけど、そろそろホントに怖い。
「…えっと、車です。」
「へえ。何の車、乗ってるの?」
「…軽です、普通の。」
…うそ。
ホントは電車通勤。
「Aちゃん、おかえり…」
「…もうやです。」
「…今日は何聞かれたの?」
「通勤どうしてるのって。」
「え、気持ち悪い。出禁にしちゃいたいけど、何か危害加えられてるワケじゃないしね…」
「はい…」
帰り、気づいたら交番の前に来てた。
無意識に助けを求めてたのかも。
"危害加えられてるワケじゃないしね"
駆け込んだところで、何もしてもらえない。
…ストーカーってワケでもないし。
俯きがちに通り過ぎようとしたとき
「どうかされましたか。」
聞こえた低い声。
顔を上げたら、ここ数日たまたま顔を合わせてなかったお隣…お巡りさん。
「えっと、仕事の帰りで…」
「お疲れ様です。」
「あ、ありがとうございます。」
「どうかされましたか。」
もう一度、聞かれる。
でもさっきより心なしか声が優しい気がする。
鞄の持ち手を握り締めてたら
「どうぞ。」
交番の中へ招き入れるように、体を横にして。
えって言ったら、小さく浮かべられた笑み。
「普段、ここ通られないじゃないですか。」
「…あ…」
「何かあったんでしょ。」
「……良いんですか?」
「今ひとりなんで、どうぞ。」
ほんのちょっとだけ、泣きそうになる。
優しい
…あ、でもお仕事の一環なのかな
地域の住民の相談に乗るみたいな。
「…ありがとうございます。」
お財布を届けたときと同じ椅子に座るよう促される。
向かいに座った彼が、お話どうぞというように手を差し向けてきたのをタイミングに、おじさんのことを話す。
私が話してる間、じっと聞いてくれてた。
それが、なんかすごく…安心できた。
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作者名:余暇
| 作成日時:2024年9月7日 0時


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