知りたくなかったよ ページ49
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緊張する。
震える唇を噛み締めながら、ウォヌさんを見据える。
「…ウォヌ、さん。」
「なに?」
優しく聞いてくれる彼に
不倫したってホントなんですか?
…聞くこと躊躇われた。
黙り込んだ私のこと、何も言わずに待ってくれてる。
聞きたくない
でもやっぱり聞かずにはいられない。
「…お手洗いから帰るとき、本署の人たちがいる個室の前通ったら…聞こえたんです。…ウォヌさんが、」
一呼吸置いて、彼を見つめる。
ウォヌさんは瞬きをした。
「過去に不倫した、みたいな話、聞こえたんです。」
すぐにでも笑ってほしかった。
それか驚いてほしかった。
でも彼はどちらのリアクションも取らなかった。
静かに目を伏せ気味にしただけ。
うそ
うそだよ
そんなワケない
「な、何かの間違いですよね…?あ!あの人たち酔っ払って、他の誰かの話をウォヌさんだと思い込んじゃったんじゃ、」
早く否定してほしいのに、ウォヌさん何も言わない。
思わず彼の手を掴めば、上げられた顔。
「そうですよね、ウォヌさん。ウォヌさんが不倫なんかするワケないですもん…!違うって、言ってください…」
彼は口をきゅっと一文字に結び、自分の手を掴む私の手を見つめたあと
「…ごめん。違わない。」
ぽつり呟いた。
え…
掴んだままの手、下にぶらんと落とす。
私をまっすぐに見た眼鏡の奥の瞳は、暗い色をしてて。
やだ、信じたくない。
「…うそです。」
「…嘘じゃない。」
「うそ。」
「…ホントだよ。」
"ホント"
その一言を聞いた瞬間、目の前のウォヌさんが急に知らない人のように思えた。
気づいたら、離れてた手と手。
「…そんな、だって、ふり…絶対にしちゃいけないことじゃないですか…」
「…ん、そう。」
「人のもの盗って、傷つけて…そんなの、最低な人がすることで…」
「ん。」
人気俳優が不倫したとき、友達皆で話したことあったの。
サイテーだね
中には
不倫するヤツなんか死んじゃえばいいのに
なんて言ってる子もいた。
それに誰も意義を唱えなかった。
ねー
って笑ってた、多分、私もそう。
ウォヌさんも不倫したあの俳優と同じなの?
友達が死んじゃえと言った"ヤツ"のひとりなの?
「…軽蔑、したよね。」
してないです
って答えられなかった。
ウォヌさんのこと好き、好きなのに。
…知りたくなかったよ。
そんな私の気持ちを分かってか
「…ん、それが普通だよ。Aさんは悪くない、悪いのは俺だから。」
彼は柔らかい声でそう言った。
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作者名:余暇
| 作成日時:2024年9月7日 0時


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