平和な日常 ページ13
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次の日の朝。
外に出るのが怖かった。
でも出勤しないワケにいかない、ドアをそっと開ける。
周りに誰もいないことを確認して静かに部屋を出た。
マンションから駅、電車内、駅から会社。
ずっとずっと周りを気にしてた。
受付の電話が鳴るたびに
"許さないからな"
受話器から聞いたあの声を思い出して震えた。
帰り道。
今はまだ日が長いから、この時間も明るいけど。
…冬になったら暗くなる。
やだな、怖いよ。
不安な気持ちでずっといたから。
マンションの前まで帰ってきたとき、階段の前にしゃがみ込んでる背中と、足元のネコちゃ…ジジを見つけるなり、すっごく安心した。
歩み寄ると、頭を撫でられてたジジが顔を上げる。
ラフな格好の彼も振り返る。
見上げてきた眼鏡の奥の目と視線が重なって。
軽く頭を下げたら、同じように下げ返してくれる。
「…どうも。」
「…どうもです。昨日は…ありがとうございました。」
改めてお礼を伝えたら、ジジの頭を撫でる手が止まって。
ゆっくり彼が立ち上がり、私が見上げる番になる。
「…今日、誰かにつけられてる感じは?」
「あ…ないです、今のとこ…」
「…そうですか。」
「はい。でも…」
ずっと怖かったです
…言いたかったけど、口噤んで。
唇を噛み締めてたら、ふいに足元に柔らかい感触。
ぱっと見下ろすと
「…あ。」
ジジが私の足元に寄ってきてた。
…もしかして、慰めてくれてるの?
そっとしゃがみ、触れようとしたら
「あっ」
触れる前に、素早く逃げられちゃった。
えー…って言ったら、ははっと降ってきた笑い声。
しゃがんだまま顔を上げると、優しい瞳に見下ろされてて。
思わずドキッとして視線を落とした。
そのあと特に会話らしい会話をすることなく。
先に階段を上がるように促され、3段ぐらい空けた距離間で彼も後ろから続いた。
部屋に入る際も、周りを気にしてから
大丈夫そうです
告げたあと、私に入るよう促した。
…私が怖がってるの気づいて、そうしてくれたのかな。
それから数日、何もなくて。
休日のお昼。
お買い物の帰り、この前の年配のお巡りさんと出会した。
今みたいに時間問わず巡回してるけど、あれから怪しい人見てないみたい。
おねえさんが交番に入るのみて諦めたのかもよ
そう笑った。
…そうだったらいいな。
気づけば、2週間。
すっかり平和な日常に戻ってた。
つけられてると思ったの、勘違いだったのかな?
そう思い始めるくらい、すっかり気を抜いちゃってた。
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作者名:余暇
| 作成日時:2024年9月7日 0時


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