21-出会い(4) ページ21
.
走って走って、自分の住む町の路地裏に身を隠す。
腰に手を当てて息を整える私とは裏腹に、船長さんは息切れ一つしていない。
……まじか、結構全速力で走ったのにな。
余裕で腕を組む彼を恨めしく眺めつつ、頬に伝う汗を拭い、「すみません、巻き込んでしまって」と形上は謝る。
「この事は内密にしてくださると助かります」
船長さんは私の片手にある膨らんだ風呂敷を一瞬だけ見る。が、興味無さげにすぐに視線を戻して。
「そんなことはどうでもいい」
「は？」
「質問に一つだけ答えろ」
いやいやいや、サラッと受け流したけど、盗みをやってることがバレたら大問題なんだよ。こっちは。呑気に海賊さんの質問に答えてる場合じゃない。
船長さんは私の心情も知らずに、構わず続けた。
「何の実を食った」
「……、なんのこと」
「とぼけんな。『
わかりやすくピクリと肩が跳ねる。
あ、やばい。素直に反応してしまった。
船長さんの目が微かに細まる。
もしかして、犯行の一部始終を見られていた？
騒めく鼓動。
息をするのも忘れて、喉が乾く。
何も言えないでいると、突如肩を荒々しく掴まれる。
急な衝撃に手にしていた風呂敷が地面に落ちる。
「答えろッ」彼は切羽詰まった様子で私に問い詰めた。
「食ったんだよな！ナギナギの実を！」
…
月明かりのせいで、彼の表情がはっきりと読み取れた。
怒り、ではない。
まるで縋り付くような。
手に込めた力の強さが必死さを表している。
「ナギナギの実の、……能力者なんだろ」
一際大きく、瞳が揺れる。
海賊としてではなく、ただの人間を相手をしてる気分になった。
拳を握り、不安定な彼の瞳を強く見つめ返す。
「…………そうです。私は、ナギナギの実の無音人間。1年くらい前に、浜辺に流れ着いていたのを偶然食べました」
「！……そうか、やはり」
開いた口元が緩く弧を描く。
笑顔と呼ばないレベルの笑顔に視線を奪われる。
え？と驚いているうちに、彼は私の肩に顔を埋める。
軽く抱き締められたような体制にえ？え？と今度は困惑する。
彼が何故、ナギナギの実にこだわるか。
どんな思い入れがあるのか。
この時はもちろん何もわかっていなかった。
「お前、おれの船に乗れ」
私を仲間に誘う理由も。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1881人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ONEPIECE」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
涼野紫乃(プロフ) - 完結おめでとうございます！作者様のローオチの作品は他にも読ませていただいてますが毎回話の構成、終わり方が最高で泣かされてしまいます。新作も絶対読みます！これからも頑張ってくださいm(_ _)m (2020年8月16日 8時) (
レス) id: 5f142ceaa5 (このIDを非表示/違反報告)
てい。(プロフ) - 完結ご苦労さまです！更新まだかなと楽しみに思えるほどこの小説が好きでした！1番が気になっています、気になりすぎて早く読みたいくらいですが…これからも頑張ってください！応援してます (2019年9月24日 18時) (レス) id: 6af5281e1b (このIDを非表示/違反報告)
ぱぅち(プロフ) - 皆様ご協力頂きありがとうございました…！一人一人にきちんとお返事したいところですが、有り難いことに多くの方にご意見をもらえて…泣 でもコメントや感想はすべて読ませていただきました！本当に温かいお言葉をもらえて嬉しいです！今後もよろしくお願いします…！ (2019年9月24日 17時) (レス) id: fbe06363c9 (このIDを非表示/違反報告)
ぴろぴろ(プロフ) - 完結お疲れ様です★遅くなりましたが、3番が読んでみたいです(*´∀｀) (2019年9月24日 11時) (レス) id: 5ce8d72b22 (このIDを非表示/違反報告)
るな(プロフ) - 2.3どちらも捨てがたいです(ﾟ´ω｀ﾟ)！完結お疲れ様でした！ (2019年9月24日 1時) (レス) id: e1ea64eec7 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ぱぅち
| 作成日時：2019年9月8日 18時
