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本名を名乗る気にもならず、また男に名前呼ばれることが嫌でAはそしらぬ顔で嘘をつく｡
アリス、と聞いた時、男の瞳に驚きの色が見えた｡ほんの一瞬だったが｡
突然男は笑い出した｡Aは不気味でしかたなかった｡
｢……何がおかしいの｣
男をにらみつけながらAは尋ねた｡
彼は愉快そうに笑みを浮かべたまま、Aの質問に答えた｡
｢やっと謎が解けたんだ｡笑っちまうだろ｡しっかしお前の母親は愚かだなあ｣
｢ママを、知ってるの?｣
Aは目を大きくして聞き返してしまう｡
｢ああ｡お前の父親もな｣
男はさぞおかしそうに笑うが、Aにとっては笑いごとではない｡
どうしてこの男が自分の両親を知っているのか｡
それまでたいして恐怖を抱いていなかったAであったが、彼の発言を聞いて初めて背筋に冷たいものを感じた｡
｢さーて、アリスちゃん?盗んだものを返してもらおうか?｣
アリスは偽名だ｡それなのに男にそう呼ばれると、ひどく虫酸が走った｡
Aは鳥肌が立つ感覚をこらえて答える｡
｢何も盗んでなんかない｣
男はAの答えを聞くと、途端に血相を変えた｡
表情からだけでなく、オーラとしても怒りを感じとることができる｡
男はAが縛りつけられているイスごとガンガンと揺すり、彼女を脅した｡
｢あ゛あ゛?ふざけんな!テメエの父親が俺の大事なSDカードを盗んで、母親はお前に渡したって言ったんだよ!早く出せっ!｣
Aは勢いよく揺らされて頭が痛くなりそうだった｡このままでは呼吸もままならない｡
｢知らないっ本当に知らないのっ!お願いっやめて!｣
Aは息を切らして叫ぶ｡本当に何も知らない彼女は、そう言うしかなかったのである｡
Aの必死な訴えに納得したのか、男はイスを揺らすのをやめた｡
ハアハアと荒くなったAの呼吸が部屋にやけに響く｡
｢ったくどういうことだ?宝物はアリスに託して時計うさぎがさらってったって言ってたよな?｣
誰に聞くでもなく男は呟く｡
Aにはその言葉の意味が分からなかった｡アリスが自分を指すことしか理解できない｡
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作者名：futureblue�鏡� | 作者ホームページ：http:/
作成日時：2019年5月27日 19時
