てっちゃんの七転び八起き

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「アイスアメリカーノください。」



バイト先のカフェによく来るお客さん。

独特の発音とユニークなスタイルは、
日本人だからだろうか。


特別目立つ容姿でもなければ、ブサイクでもない。

でもきちんとオシャレに気を使った、
まさに最近の可愛い女の子、といったような感じ。


一日に何百人と相手にする大人気カフェで、
言っちゃ悪いが平々凡々なその子が印象に残っているのが、自分でも不思議だ。


他の常連客のように世間話をする訳でもなければ、
向こうからテヒョンくん、なんて話しかけてくる訳でもない。

ほんとに、ただのバリスタと客。


だけど彼女が店に入ってきたら必ず目に留まるし、俺のレジに来ないかな、なんてほんのり期待したりしている。

小っ恥ずかしいが、完全に恋である。






今日もいつも通りアイスアメリカーノの注文を受けて、いつも通り商品を手渡す。

ありがとうございます、と柔らかく笑う彼女に
心がホワッと温かくなりつつも、
次から次へと押し寄せる客に一瞬で掻き消されていく。
これが日常。







「あー、だる…」

「ヒョン、文句は裏で言ってくださいよ。」


朝の目の回る忙しさが落ち着いた一瞬の隙に
本音を漏らすと、シウに背後からどつかれた。

愛想振り撒いて売り上げに大貢献している俺様相手に、なんて態度なんだお前は。



「俺もう帰っていい？」

「何言ってんすか。まだ昼前ですよ。」

「今日はもうここに居る理由がない。」

「何しにバイト来てんすか。」


何しに？
アイスアメリカーノちゃんに会いに。
とか死んでも言えないけど。


「…稼ぐために決まってんじゃん。」

「だったら定時までしっかり稼いでください。」

「へーい。」

「次のピークまでに休憩も入ってくださいね。」

「ハイハイ。」



うるさい後輩の小言を背中で聞きながら、
休憩室のドアを開けて中の椅子にドカッと座る。




　

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