雨の日、飴の日 野菊さんリク ブラックモア ページ9
今日の午後、急に雨が降り出した。
私はアパートの窓からそれを見てハッとする。
開けっ放しだった窓を閉めようと慌てて駆け寄ったとき、違和感に気がついた。
雨が、降っていない。
でも、決して止んではいない。
空中に固定された幾千もの雨の糸。
彼が、近くにいる。
窓は開けたまま、窓枠に肘をついてあの姿が現れるのを待つ。
あのブロンドヘアー、レインコート、蝙蝠傘を。
「スイませェん……」
程なくして彼はやってきた。
端整な顔を申し訳なさそうに歪め、お馴染みの口癖と共に。
「いらっしゃい、ブラックモア」
窓の外、雨に足をかけて宙に立つ男、ブラックモアに挨拶をする。
ここはアパートの二階。
雨に乗りやってきて窓の外に姿を現す…まるで妖精のようだ。
まぁ、妖精が被るにはあまりにおぞましい仮面を持っているが。
「お茶でもどう？」
「いや、今日は別の用事があって…」
「じゃあどうしてここに？」
「Aさんに会いたくて来ました」
あまりにストレートな理由に、頬が熱くなってしまう。
「すいませェん…急でしたよね。では私はこれで…」
「いいのいいの！あ、ちょっと待ってて」
足早に去ろうとするブラックモアを引き止め、大急ぎで棚から引っ掴んできた物は500mlのビン。
中にはいっぱいの飴玉。
「これあげる！」
「この中身…全部ですか？」
「うん！」
「あっ待ってください……手が切れてしまいます」
差し出そうと手を伸ばした時、一歩踏み出したブラックモアが私の手を握って制す。
冷たく骨ばった手の感触に僅かに肩が跳ねる。
そうだった。彼が静止させた雨は他人が触れると刃になってしまうのだ。
彼は自分から手を伸ばしビンを受け取り、中の飴を一つだけ取り出すと私に返してしまった。
「残りは次来た時の楽しみにしておきます」
「そう？わかった。会いに来てくれてありがとう、ブラックモア」
「こちらこそ」
そう言って、彼は早速飴玉を口に放る。
「…甘いですね」
「飴だもん」
「それもそうですね…では、失礼します」
そう呟く彼は珍しく笑顔を浮かべていた。
下がり眉のまま浮かべた笑みは少々歪だが、彼のそれは不思議な魅力がある。
雨の中を歩き去っていく彼を見送り、手元に残ったビンを見つめる。
次に飴玉が減る日は、彼が来てくれる日。
そう思うと、次の雨の日が急に恋しくなった。
早く来ないかな。
彼を思って、カラフルな飴玉の詰まったビンを胸に抱きしめた。
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ウィルゴ・パルテノス - リクでダービー兄弟と一緒に日本の駄菓子を食べてみたをお願いします (2022年8月16日 7時) (
レス) id: b628f3ea92 (このIDを非表示/違反報告)
ヒヨコダイル - 15さん» コメントありがとうございます。浮上もできない半端な者ですがもう少しだけ頑張るつもりです。 (2020年9月18日 16時) (レス) id: eaa08fab16 (このIDを非表示/違反報告)
ヒヨコダイル - みかんじゅうすさん» 更新はするつもりです。ですが、度重なる体調不良と将来の進路に関する活動を含む学生生活が忙しくてなかなか趣味としてPCに向かえない日々が続いております。決して投げ出したわけではございません。誠に申し訳ございません。もうしばしお待ちください。 (2020年9月18日 16時) (レス) id: eaa08fab16 (このIDを非表示/違反報告)
みかんじゅうす - もう更新されないんですか？ (2020年9月16日 23時) (レス) id: 33585c80db (このIDを非表示/違反報告)
15 - 神よ！ (2020年8月15日 22時) (レス) id: 33585c80db (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ヒヨコダイル | 作成日時：2018年9月17日 21時
