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灰色の世界で 吉良吉影 ページ21

安心とは遠ざかった世界の、そのまたむこうの世界。

灰色の世界に今日も灰色の雨が降る。

その絶望の世界の端っこで、膝をうずくまる貴方を見つけた。


「吉影さん」


お気に入りの赤い傘をくるくる回しながら声をかける。

気付いていない貴方は顔を上げてくれない。

今度はもっと近づいて、しゃがみこんでもう一度。


「吉影さん」


「…………」


ゆっくり顔をあげた貴方は可哀想な程傷ついていた。

掻き乱された柔らかな髪。

端整な顔に、長い指に、白い首に刻まれた無数の引っかき傷。

よれて擦り切れて引き千切れたスーツ。


「…ァ……」


赤く腫れた目に涙の痕。

ぼんやり曇ってしまった目はちゃんと私の姿を捉えているか怪しい。

どれほど泣き喚いたのかわからないが、もう声は小さな呻きのようなものしか出てこないようだ。


「大丈夫…ではなさそうですね」


少しこけた頬に両手を添えてみる。

差し出された手に一瞬、怯えるように身体を強張らせたが抵抗する力も無いのかすぐ脱力した。

慰めるように、涙の痕を癒すように親指で撫でる。

貴方は抜け殻のよう。

本当はまだ泣きたいのだろうけど、もう涙は出てこないらしい。

疲れきった瞳で時折静かな瞬きをするだけだった。

でもやがて静かに目を閉じて表情に幾分安心を浮かばせる。


「お疲れ様でした、吉影さん」


私は傘を放り出して強く強く抱きしめた。

乱れた髪を直しながら頭を撫でる。

弱弱しく震える背中を擦ってやる。

しばらくされるままだったが、貴方は私の背に手をまわす。

抱きしめる力はないらしく添えているだけだったけど。

縋るように冷たい手が揺れている。


「怖かったですね」


身体を離して、頬にそっとキスを落とす。


「さぁ、行きましょうか」


そう言って微笑んでみせれば、貴方はやっと安堵の笑みを浮かべた。


いつの間にか雨は止んでいる。

立ち上がり手を差し出せば、貴方はそっと手をとり立ち上がる。

投げ出した傘をたたんで歩きだす。

勿論、貴方と手を繋いで。

よろよろ歩きながらも私の手が離されることはない。

このまま行こう。

もうこの手を離すことはない。


安心とは遠ざかった世界の、そのまたむこうの世界。

灰色の世界に今日も灰色の雨が降る。

その絶望の世界の空には、七色の虹が架かっていた。

泣かないで(1) リゾット・ネエロ→←肉じゃが プロシュート



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ウィルゴ・パルテノス - リクでダービー兄弟と一緒に日本の駄菓子を食べてみたをお願いします (2022年8月16日 7時) (レス) id: b628f3ea92 (このIDを非表示/違反報告)
ヒヨコダイル - 15さん» コメントありがとうございます。浮上もできない半端な者ですがもう少しだけ頑張るつもりです。 (2020年9月18日 16時) (レス) id: eaa08fab16 (このIDを非表示/違反報告)
ヒヨコダイル - みかんじゅうすさん» 更新はするつもりです。ですが、度重なる体調不良と将来の進路に関する活動を含む学生生活が忙しくてなかなか趣味としてPCに向かえない日々が続いております。決して投げ出したわけではございません。誠に申し訳ございません。もうしばしお待ちください。 (2020年9月18日 16時) (レス) id: eaa08fab16 (このIDを非表示/違反報告)
みかんじゅうす - もう更新されないんですか? (2020年9月16日 23時) (レス) id: 33585c80db (このIDを非表示/違反報告)
15 - 神よ! (2020年8月15日 22時) (レス) id: 33585c80db (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ヒヨコダイル | 作成日時:2018年9月17日 21時

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