検索窓
今日:3 hit、昨日:17 hit、合計:58,175 hit

深夜の音楽家と リゾット・ネエロ ページ1

月も高く昇った深夜、静まり返った繁華街にて。

色あせたキャスケットを深く被り、私は私だけのステージを探していた。


「…今夜はここがいいかな」


可愛らしい色の石畳を踏んで噴水の縁に腰を下ろした。

それから背負っていた古臭いケースから相棒…真っ黒なアコースティックギターを取り出した。


チューニング確認。

静かに息を吸い込んだ時、闇夜を歩く人影が近づいてくるのが視界の端に見えた。


思わず動きを止めると…。


「歌わないのか?」


地を這うような低い声でその人影は問いかける。

キャスケットの鍔を押し上げて見上げると、立っていたのは普通よりずっと大きな体躯の男性だ。

真っ黒な帽子に真っ黒な上着。ついでに目も真っ黒。

なるほど、見えにくかったわけだわ。

気のせいかしら?ちょっと鉄くさい。


「Buona sera.こんな時間に人に会ったのは初めてです」

「…聴いていってもいいか?」

「ええ、勿論」


たまには誰かに聴いてもらうのも悪くないかもしれないな。

その真っ黒な男の人は、律儀にも地べたに座り込んで聴く姿勢をとってくれた。

顔を見られてちょっと照れくさいけど、顔を引き締めて息を吸った。


ギターのコードを押さえる手は力んで、声はいつもより硬い。

それでもなんとか一曲、歌い終えた。


最後の音を止めると、彼は大きな手でパラパラと拍手をおくる。


「とても良かった。アンタは歌が上手いんだな」

「誰かの前で歌うのは初めてです。緊張しました」

「…?アンタ、音楽家じゃあないのか」

「あら、ありがとう」


まさか趣味でこんなことをしてここまで褒めてくれるなんて。


「これはただの趣味ですから」

「そうか……なぁ、次はいつここにいる?」

「えっ、気まぐれだからなぁ…まあ今度の金曜日くらいですかね」

「わかった。また来る」


そう言って彼は立ち上がり、もと来た道を歩き始めてしまう。


「あ、待って!」

「ん?」


慌てて呼び止めると、振り返って首を傾げる。

それがちょっと可愛いかも…なんて。


「貴方、名前は?」


ちょっと考えてから、その人は始めて表情を変えた。

口元だけでフッと微笑んで、


「次会ったときに教える」


なんて言って去ってしまった。

…よくわからないけど、素敵な人だったかも。

今度は何を歌おうかな。

ふと自分が抱えていたギターを見つめる。

真っ黒。

今のあの人みたい……。


急に恥ずかしくなって、私はその相棒を抱き込んだ。

千の言葉より一のキス マジェント・マジェント→



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.5/10 (142 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
152人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

ウィルゴ・パルテノス - リクでダービー兄弟と一緒に日本の駄菓子を食べてみたをお願いします (2022年8月16日 7時) (レス) id: b628f3ea92 (このIDを非表示/違反報告)
ヒヨコダイル - 15さん» コメントありがとうございます。浮上もできない半端な者ですがもう少しだけ頑張るつもりです。 (2020年9月18日 16時) (レス) id: eaa08fab16 (このIDを非表示/違反報告)
ヒヨコダイル - みかんじゅうすさん» 更新はするつもりです。ですが、度重なる体調不良と将来の進路に関する活動を含む学生生活が忙しくてなかなか趣味としてPCに向かえない日々が続いております。決して投げ出したわけではございません。誠に申し訳ございません。もうしばしお待ちください。 (2020年9月18日 16時) (レス) id: eaa08fab16 (このIDを非表示/違反報告)
みかんじゅうす - もう更新されないんですか? (2020年9月16日 23時) (レス) id: 33585c80db (このIDを非表示/違反報告)
15 - 神よ! (2020年8月15日 22時) (レス) id: 33585c80db (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:ヒヨコダイル | 作成日時:2018年9月17日 21時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。