とある明け方 ページ6
｢、…A！｣
障子の外から杏寿郎の声がする。
こんな早くに、どうしたのだろう。
寝惚けの着の身着のままで眠い目をこすって、障子を開けると、庭に杏寿郎が立っていた。
｢…帰ってくるのが早すぎるわよ杏寿郎…まだ顔も洗ってないのに…｣
ふあ、と欠伸を噛み殺しながら、障子に寄りかかる。
｢それはすまなかった！今から無限列車に乗る！長期戦になりそうだから別れを言いに来た！｣
ハキハキ坊やめ…頭に響く……
｢そう…気おつけてね…あ、列車に乗る前にお弁当を買うと良いわ、あそこの駅のお弁当、美味しいから…｣
｢ああ！頭に置いておこう！それでなんだが！｣
｢はいはい…(何かしらね)｣
｢結婚してくれないか！｣
…は？
｢え…今なんて｣
｢帰ってきたら、結婚して欲しいと言った！｣
命名朗々、快活に笑顔。
｢は…あの…貴方…い…一度も…私に好いているなどと言ったこと…ないわよね…？｣
｢ああ！言っていない！｣
この野郎。
いえ、ダメよね？わかってるわ。
そうゆう人だもの。
杏寿郎はいつの間にか私の近くへやって来て手を握った。初めて握手を交わしたのと同じ熱さだった。
｢…結婚してくれないか、A｣
｢……約束は出来ないわ。貴方、帰ってくると約束出来ないでしょう？｣
無限列車は、人が居なくなる事で有名だ。
恐らく、鬼の仕業なのだろう。
それに嫌な予感がする。
｢…確かに約束は出来ないな。何があるかわからない｣
杏寿郎は目を閉じた。
｢なら帰ってきた時また言おう！結婚してくれと｣
｢……そうね。それがいいわ｣
私が言うと杏寿郎はニッと笑った。
｢その時また返事を聞こう！…行ってくる！｣
｢ええ。行ってらっしゃい杏寿郎｣
(待ってるわ…ここで。)
杏寿郎は意気揚々と飛び出して行った。
はためく私の大好きな火炎模様を翻して……
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作者名：フェンタニル | 作成日時：2021年10月16日 20時
