捨て犬 1 ページ1
「いけね…鍵かけんの忘れたかも…」
帰り道。
ポツリと呟いたその一言と共にはき出された白い息は、いつの間にか透明になって空気に溶けて消えていく。
霊とか相談所から出てからまだそんなに経っていないハズだ。
戻るか?
…面倒臭いが、これが原因で何か事が起こった方が面倒だ。
「はぁ…」とため息をつき、元来た道を戻り始めた。
…と、その時だ。
「クウン…」
「!」
犬の鳴き声?
キョロキョロと辺りを見渡せば、歩道の脇っちょに薄汚れたダンボールが置いてあるのが目に入る。
近付いて中を覗き込んで見ると、そこにはプルプルと震えて縮こまっている柴犬の姿があった。
「まだ仔犬じゃねぇか…」
毛の汚れ具合からして、結構な時間置かれてるな…
虚ろな目を俺に向け弱々しく「クウン…」と鳴いた仔犬を、「おー、よしよし。もう大丈夫だぞ…」と抱き抱える。
今にも力尽きそうな仔犬を見せられて、とてもじゃないが見捨てるなんて事出来やしない。
「細いな…」
「ハァ、ハァ」と口呼吸をしている仔犬を、取り合えず自分のしていたマフラーにくるませ、早足で霊とか相談所へ向かい始める。
不味いな…心無しか仔犬の体温が冷たく感じる。
「クウン…」
「!、待ってろよ、もうすぐ着くからな…」
視線の先に、見慣れた“霊とか相談所”と書かれた看板が見えてきて、少し気が緩んだ…と、その時。
「!…電気が、付いてる?」
確かに出るとき消したハズの部屋の電気の光が、窓からもれている。
まさか…
ゴクリと唾を呑み込み、ゆっくりとドアノブに手を置く。
「フーッ…」と一回深呼吸をした俺は、そのまま勢い良くドアを開いた。
「誰だッ!?勝手に俺の仕事場に侵入してるヤツは…って、A?お前何やってんだ?」
『霊幻さん!?ビックリさせないで下さいよ!!』
部屋の中に居たのは、不審者でも泥棒でも無く、俺の仕事場のアルバイトである、Aだった。
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作者名:目から卵 | 作成日時:2019年2月10日 17時