標的201 「親の顔も知らずに生きて行く」 ページ9
「てめぇがか?」
『はい。親の顔も知りません』
物心ついた時には師匠がいた。
でも師匠は親ではない。師匠である。そういえば、両親の話なんてしてもらったことも、こちらから聞いたこともそんなにない気がする。
きっと師匠はともかく俺はその話題を静かにタブーとしていたのだろう。ほぼ無意識下だったであろうが。
『誕生日だけは師匠が教えてくれましたが、それもホントは違ったりするかもなって思います』
「そうか」
『でも日本国籍ではあるので、生まれたのは日本じゃないですかね。たぶん』
師匠がいなくなってからは一人だった。
寂しいと思うこともありはしたが、別に苦痛ではなかった。そういうモノだと思っていたし、学校に通っていた数年間はそれなりに友達と部類分けできる人間もいた。それこそ、部活動仲間やクラスメイト、休みの日に映画を見に行こうと誘ってくる奴とか。
「親に会いたいと思うか?」
『そうですね……どんな人だろって程度には』
「それだけか」
『………はい』
もやっとした。
なぜかは知らない。俺が口から紡いだ言葉に少しも嘘はない。別に感動の再会とかは全く望んでないし、本当に興味だけだ。
このカーテンの向こうに生き別れのお母さんがなんてバラエティー番組の企画みたいなことが今ここで起こったとしても、なんの感慨もないだろう。でもカーテンは気になるから捲っちゃうかな。
そう、本当にそのくらいの事しか思っちゃいない。いないのになぜかもやっとした。
『じゃあ、俺は部屋に戻りますね』
「あぁ」
考えても分かるこっちゃねえとボスの部屋を後にする。仮眠でもするか。きっと睡眠が足りてないんだろうと適当にあたりをつけて自室へと足を向けた。
Aが出て行った数分後、ザンザスの自室を訪れたスクアーロはいつものように理不尽な怒りを向けられず首を傾げた。
「どうかしたかボス」
「……いや」
珍しく歯切れが悪いボスに具合でも悪いのかと眉を潜めた腹心。つい先日まで氷漬けだったのだ、不調があってもおかしくはないし、見逃すわけにはいかない。内線でドクターを呼ぶかと算段をつけたところでザンザスが口を開く。
「親がいねえらしい」
「あ?」
「Aだ」
「あいつがかぁ?」
の割にはスレてねえな、と素直な感想を溢せばまた黙り込むザンザス。
この無言は同意ということを知っているスクアーロは「で?」と続きを促す。
「それ以上はねえ」
「そ、そうか」
流石のスクアーロも返答に困ったようだ。
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りお(プロフ) - こんばんは、いきなりのごめんと失礼致します!とっても面白かったです、作者様のこの作品を見つけて一気読みしてしまいました!こんな素敵な作品ありがとうございます。次の更新も楽しみにしております! (2021年6月30日 23時) (レス) id: 02a06a9e06 (このIDを非表示/違反報告)
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