2月14日の過ごし方 (ページ38)

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それからはショップに行って佐久間さんがいれば挨拶をし、忙しそうで話せない時でも会釈だけはするようにして、どんどん距離が縮まった。

佐久間さんに会えれば仕事の疲れなんて吹き飛ぶし、仕事であった嫌なことなんて忘れてしまえるくらいの幸福感を得ることができる。

あの日、推しのチェキ風カードを貰った日の佐久間さんの笑顔と優しさに私は佐久間さんという名の沼にハマりきってしまったのだ。

初めての三次元の推し。

リアルに会える推し。

アイドルみたいだけど、アイドルよりは身近で、会話もできる。

推しと会話できるなんてどんな幸せよ？

私前世ですごい徳を積んだのかもしれない、と本気で思った。

そんな佐久間さんを推す気持ちに変化が起きようとしている。

今まさに。

目の前に、と言っても離れた場所ではあるけれど、佐久間さんがいて、その隣にはこの界隈では有名なオタクの女の子、カレンさんが。
なぜ有名なのかというと、とても素晴らしい絵師さんで、さらにとても可愛いからだ。
私ももちろん知っているし、おそらく私があの日に引いたくじの作品を好きな人なら知らない人はいないと思う。
それくらいすごい絵師さんだ。

楽しそうに笑う佐久間さんと、可愛らしく笑うカレンさん。

二人を見た途端、胸がギュッとなる感覚がして、息が苦しくなった。

私は今日、佐久間さんと話すようになってから初めて声をかけず、会釈もせずにショップを出た。

あぁ、せっかく金曜日だったのにな…と思いながらコンビニでお酒を買って帰る。

ヤケ酒だ。

と飲みながらふと思う。

私は何に対してこんなにモヤモヤしているのか、と。

そして気付かざるを得なくなった。

佐久間さんは私の推しなんかじゃなく、好きな人になってたんだってことに。

久しぶりの恋がこんなにも呆気なく終わってしまうなんて…。

オタクだからと自分を卑下する気はないが、私みたいな普通のオタクは佐久間さんみたいな素敵な人と恋をするなんて毛頭無理な話だと自覚している。

素敵な人には素敵な人が。

佐久間さんには普通の私より素敵なカレンさんの方が似合う。

大体そうなんだ。

イケメンは可愛い彼女を連れていることが多いし、頭のいい人の彼女は頭が良いことが多い。

そういうもの。

そうだ、だから仕方ない。

私はこれからも、友達として…というかショップの常連として、仲良くしてもらうだけで幸せだ。