命乞いした子供 ページ18
「きゃあああぁぁっ!!」
『な、何? 今の……』
皆に風邪を移さないようにと別室で寝ていた私は、劈くような悲鳴で目が覚めた。
ドタバタと、何かが激しく暴れているような物音。
徐々に途切れていく悲鳴。
鉄のような悪臭。
ふいに勢いよく障子が開かれ、沙代と先生が部屋に飛び込んでくる。
「Aねぇっ!!」
「A、沙代を連れて部屋の隅に、私の後ろに隠れていなさい!」
『先生、いったい何が……ひっ!?』
二人を追いかけるように部屋に入ってきたのは、額に角を生やした人形の化物__鬼だった。
ソイツの口や爪から滴る血を見た瞬間、脳裏に皆の顔と先程の悲鳴が過る。
生まれて初めて、鬼を見た。
私は怯える沙代を抱き締め、先生の言う通りに部屋の隅に寄った。
先生は私達を守るために、素手で鬼と戦った。
鬼の身体は朝日を浴びると同時に消え去り、寺に残ったのは子供たちの亡骸と、血だらけになった先生と、ガタガタと震えた沙代と私だけ。
お寺に駆け込んできた大人たちは、沙代の言葉で先生を子供殺しの犯人だと決めつけた。
『待って、違う……! 犯人は先生じゃない! 皆を殺したのは__』
私の言葉は「恐怖で混乱していた」「高熱で幻覚を見ていた」などと片づけられ、私はそのまま医者の元に預けられた。
後日。
私が知ったこと、聞いたことは四つ。
一つ、沙代は先生を犯人だと言ったわけではないこと。
二つ、殺人の罪で投獄された先生は、誰かに救われ、処刑されずに済んだこと。
三つ、あの夜、寺の前で焚いていた藤の香炉が、何者かによって消されていたこと。
四つ、寺周辺に獪岳の亡骸は見つからなかったこと。
私を引き取った医者は、私が孤児で金に期待できないことを知るなり、私を隣の町に捨てに行った。
すぐに町を去ることになった私は、先生の行方も、獪岳の安否もわからぬまま、二度とあの寺に戻ることはなかった。
「……あの時、A姉の部屋に逃げる前に、あの人……あの化物が言っていたの。獪岳が、自分の代わりに私達を喰わせるって化物に命乞いしたって」
『っ!』
獪岳はなんというか……自尊心の強い子だった。
自分の方が凄い、自分の方が偉い、自分の方が強いなどと他人を見下す癖があって、よく他の子供たちとぶつかっていた。
自分の命と、私達の命が天秤にかけられたら、多分獪岳は……。
__だけど。
『……沙代は家族の言葉よりも、家族を殺した鬼の言葉の方を信じるの?』
「え……」
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紅いちご - 続編ですか!!楽しみに待ってますね! (2021年11月6日 22時) (レス) @page41 id: 0ffbfabdee (このIDを非表示/違反報告)
むつき。(プロフ) - 続編おめでとうございます!これからも頑張ってください(๑•̀ㅂ•́)و✧ (2021年11月6日 5時) (レス) @page41 id: 6b2570d7e2 (このIDを非表示/違反報告)
紅葉いろは(プロフ) - むつき。さん» コメントありがとうございます! 本編でもこの二人の関係性はしんどいので、今後どう夢主ちゃんと絡ませていこうか悩んでいます(苦笑)無限列車が近づいてきて精神が削られていますが、更新頑張っていこうと思います! (2021年11月4日 22時) (レス) id: cba06c9064 (このIDを非表示/違反報告)
むつき。(プロフ) - 冨岡さんと錆兎さんのシーンにめちゃめちゃぐっと来ました(語彙力)更新頑張ってください! (2021年11月3日 18時) (レス) @page38 id: da60582d52 (このIDを非表示/違反報告)
紅葉いろは(プロフ) - 匿名希望さん» ご指摘ありがとうございます! 本当ですね! 全然気がつきませんでした……ありがとうございます! (2021年10月22日 22時) (レス) @page29 id: cba06c9064 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:紅葉いろは | 作成日時:2021年9月22日 15時