硬い頸 ページ35
炭治郎は心配そうに私の顔を覗き込む。
その額からは、未だに生々しい血が流れている。
『私は大丈夫だけど、炭治郎のほうが……っ! 前!!』
視界の隅でこちらに迫る手を捉え、そう叫ぶ。
私を抱いているせいで、炭治郎は両手が塞がっている。
私がなんとかしなきゃ……!
「しっかり掴まっててくれ!」
『え? ……ええぇっ!?』
炭治郎は私を支える手に力を込めると、ぐるりと回転する。
頭突きで迫りくる手を躱し、逆にその腕の上に着地してみせた。
『ちょ、え……っ!? 炭治郎、頭平気? 痛くない?』
「問題ない! 俺は石頭だからな!」
ええぇ……?
炭治郎は私を下ろすと、再び迫ってくる腕を切り刻んでいく。
「周りの手は俺が切る。Aにはあの鬼の頸を任せていいか?」
『うん!』
小さく頷き、腕を伝って鬼の頭へと駆け出す。
炭治郎が援護に入ってくれたおかげで、先程よりも格段に動きやすい。
一々邪魔な腕に足を止めずに済む。
これなら、いける……!
『全集中。狐の呼吸、壱ノ型__』
錆兎でも切れなかった、硬い頸。
大丈夫、きっと切れる。
切って、みせる__!
『狐火』
横に一振。
私の刃は、真っ直ぐに鬼の頸を切り裂いた。
『……っ!』
「やった……っ!」
地面に着地すると、後ろで頸が地面を転がる音が聞こえてくる。
振り返ると、崩れていく鬼の姿があった。
やった……やったよ、やった!
勝ったよ。
錆兎、真菰、皆、鱗滝さん……!
込み上げてくる感情を抑えるように、刀の柄を強く握りしめる。
『う……ぅ、ふぅ……っ!』
なんでだろう。
涙が出てくる。
ちゃんと鬼を倒したのに。倒せたのに。
……どうして、錆兎たちが遠ざかっていくような、もう二度と会えないような、寂しい気持ちになるんだろう。
「A」
『炭治郎……う、ふっ、ああああぁっ!!』
眉を下げてこちらに歩み寄ってきた炭治郎。
その胸にしがみつくように飛びつくと、炭治郎は私を受け止め、優しく背中に腕を回してくれた。
__よく、頑張ったな。
__ありがとうね。A。
この場にいないはずの二人の声が聞こえた気がした。
それらの声は、さらに私の涙を誘い出す。
ダメだよ。早く泣き止まなきゃ。
最終選別はまだ始まったばかり。
いつ、また鬼が現れてもおかしくないのだから。
だけど、もう少しだけ。
もう少しだけ私に、二人の温もりを思い出させて。
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紅葉いろは(プロフ) - 人見さん» コメントありがとうございます(*´∀`*)初めての小説でいろいろ不安だったので、プラス寄りの感想が貰えて嬉しいです!更新頑張ります! (2021年8月14日 20時) (レス) id: cba06c9064 (このIDを非表示/違反報告)
人見(プロフ) - 面白かったです!眠っていた、という設定がすごく斬新で面白いです!ここからどういう展開になるのか楽しみです!更新頑張ってください!応援してます! (2021年8月14日 18時) (レス) id: 0469953c81 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:紅葉いろは | 作成日時:2021年8月14日 10時