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ただいま ページ26

「大丈夫だよ、A」

私の隣に立つ真菰が、優しい声色で私の顔を覗き込む。
その時初めて、自分が強く唇を噛み締めていたことに気がついた。

『真菰……』

真菰は小さく頷くと、炭治郎の方に顔を向けて声をかける。

「炭治郎、よくやったね。今のを忘れないで」

静寂に満ちた山の中に、霧が立ち込めていく。

ふいに誰かに肩を叩かれる感触がし、振り返る。
しかしそこには誰もおらず、炭治郎と対峙していた錆兎の姿も消えていた。


「勝ってね。A、炭治郎。アイツにも……」


『真菰……っ!』


隣にいるはずなのに、徐々に真菰の身体が霞んでいく。
彼女に向けて手を伸ばすが、その手は空振りに終わる。

違う。霧のせいじゃない。
真菰の身体が消えかけているんだ……!

真菰は静かに微笑し、その姿を完璧に眩ませた。


「……えっ」

後ろから、炭治郎のか細い声が聞こえる。
振り向くと炭治郎の目前には例の大岩があり、振り下ろされた刀は大岩を真っ二つに斬っていた。

炭治郎は困惑したように目を瞬かせて、取り残された私に目をやる。

「A、これはいったい……?」

『……』

私は短い沈黙の後、炭治郎に向けて頷いた。

『……錆兎と、真菰のおかげだよ』

炭治郎は納得のいかなそうな顔をしていたが、私の苦しげな表情を悟ってか、それ以上は追及してこなかった。


ザッザッと、土を踏みしめる足音が聞こえてくる。

炭治郎と同時に顔をそちらに向け、目を見開く。

見覚えのある天狗のお面。
青い波が描かれた着物。

その姿からは以前と比べて少し衰えを感じ、改めて自分が五年の時の流れに逆らっていることを実感する。

でも間違いない。


「__A、か?」

ずっと聞きたかったその声に名前を呼ばれ、涙が込み上げて両手で口元を押さえる。

「A、今まで何処に……」

『鱗滝さん……っ』

よろよろと鱗滝さんの方へと歩み出す。


話したいことが、たくさんあるんです。

心配かけたこと、ずっと帰らなかったこと、刀を折ってしまったことなどの謝罪。

錆兎と真菰との出会い、脱ぎ捨てた孤独、修得した新たな呼吸。

二人の意思を継いだ私が、やり遂げなければならないこと。


でも、違うんだ。

私が今、一番伝えたいのは__



『__ただいま戻りました。師範』


鱗滝さんの前で足を止め、涙をぐっとこらえて告げる。

鱗滝さんは無言でシワだらけになった腕を伸ばし、私の頭を撫でてくれた。

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紅葉いろは(プロフ) - 人見さん» コメントありがとうございます(*´∀`*)初めての小説でいろいろ不安だったので、プラス寄りの感想が貰えて嬉しいです!更新頑張ります! (2021年8月14日 20時) (レス) id: cba06c9064 (このIDを非表示/違反報告)
人見(プロフ) - 面白かったです!眠っていた、という設定がすごく斬新で面白いです!ここからどういう展開になるのか楽しみです!更新頑張ってください!応援してます! (2021年8月14日 18時) (レス) id: 0469953c81 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:紅葉いろは | 作成日時:2021年8月14日 10時

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