素顔と傷跡 ページ22
私は、錆兎の素顔を見たことがない。
そのお面の下にどんな顔が隠れているのか。
それが気にならないほど、他人に興味を持たない以前の私ではなくなったと思う。
錆兎はしばらくの間逡巡するように硬直する。
その後、辿々しく自分の狐面に右手を伸ばした。
『……!』
狐面に覆われていた、宍色の前髪が揺れる。
控えめに下を向いていた薄紫色の瞳が、徐々に上がっていく。
その瞬間、私と錆兎の二つの視線が、初めて交わり合った。
全体的に整った、青年らしいスッとした顔立ち。
それにそぐわないはずの口元の傷も、錆兎の穏やかな顔に不思議なくらいぴったりと合っていた。
『鱗滝さんみたい……』
私が無意識にそう呟くと、錆兎は怪訝そうな顔を浮かべる。
『隠しちゃうのがもったいないくらい、優しくて綺麗な顔をしてるってこと』
以前鱗滝さんに、どうして天狗のお面をつけているのかを聞いたことがある。
鬼に優しすぎる顔を馬鹿にされてから顔を隠すようになったと言っていたが、そんなの、せっかくの顔が勿体ないと思う。
錆兎の顔をまじまじと見つめていると、錆兎は照れくさそうにそっぽを向く。
『……口の傷、痛くないの?』
「あぁ」
『触ってみてもいい?』
「気味悪く思わないのか?」
『思わないよ。その傷も含めた全部が、錆兎の素顔だもん』
私はゆっくりと錆兎の顔に手を伸ばし、指先で口元の傷跡に触れる。
見た目でもわかる通り、そこだけザラザラとした肌の感触が指に伝わってくる。
『……錆兎の、努力の結晶だね』
「そんな大層なものではない」
『錆兎は自分に厳しすぎる。大層なものだよ。だって、錆兎の傷と私の傷は別物だもん』
私はそう言って、袖から除く自分の腕に目をやる。
真菰の丁寧な手当てのお陰で、すっかり目立たなくなった自傷の跡。
錆兎の傷がいつ、どのような状況で作られたものかはわからない。
けれど、これだけは断言できる。
錆兎の傷は、私のように自身を犠牲にする考えで作られたものではない。
私の傷を“弱さの証”とするならば、錆兎の傷は“強さの証”。
あとどれくらい前に進めば、……錆兎の強さに追いつけるのだろう?
「……」
ふいに錆兎は傷跡を撫でる私の手に自分の手を重ね、私の掌に頬を擦り寄せる。
『錆兎?』
「……暖かいな。Aの手は」
『何言ってるの? 錆兎の手も、同じくらい暖かいじゃん』
「……そうだと、いいんだがな」
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紅葉いろは(プロフ) - 人見さん» コメントありがとうございます(*´∀`*)初めての小説でいろいろ不安だったので、プラス寄りの感想が貰えて嬉しいです!更新頑張ります! (2021年8月14日 20時) (レス) id: cba06c9064 (このIDを非表示/違反報告)
人見(プロフ) - 面白かったです!眠っていた、という設定がすごく斬新で面白いです!ここからどういう展開になるのか楽しみです!更新頑張ってください!応援してます! (2021年8月14日 18時) (レス) id: 0469953c81 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:紅葉いろは | 作成日時:2021年8月14日 10時