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屋外の訓練所にて煙草をふかす男が1人。訓練所を囲うフェンスによしかかり、天へと向かう煙を眺める。
『…来たか。』
煙草を口から離し、握りつぶす。
見覚えがあるようなないような…そんな男に2人は声をかける。
コビー「え、えっと…あなたは…」
『…A。A・パシヴァール。いつも通り鍛錬を開始するといい。』
そう言ってベンチに腰掛ける男に、2人は唖然としていた。
…なんだってこのダンディな男が、あの可愛げある男の名前を名乗るのか。
ヘルメッポ「…お前が、パシヴァール?」
『…あぁ、俺がパシヴァール。』
そう返される言葉に、2人は未だ理解が出来ないままでいる。
とりあえず、訓練を始める2人に、何事も無かったかのように本を読み始める。
コビー「あ、あの!A…さん……」
『ん?どうかしたのかコビー。』
コビー「…どうしてそのような姿に?」
突っ込まずにいられなかった。そんな様子で話し始めるコビーに男は簡潔に話を伝える。
納得したような、しなかったような顔で「分かりました。」とだけ口にした。
『…すぐ戻るだろう。深くは考えない方がいい。』
そう言って再び本に視線を戻す男。
なかなか様になっている。細く骨ばった指がページを丁寧に捲る。メガネ越しの瞳はただただ文字を追っている。
……妙に色っぽいそれらの動作に2人は釘付けになっていた。
『……そんなに見ないでくれ。ここも落ち着かんな。』
本を閉じて向き直る。
2人はびくりと肩を揺らして驚いているが、男はひとつ息をついて、次の指示を出した。
『…俺はしばらく席を外す。呼べば来る…用があるなら呼べ。』
そう言って男は姿を消した。瞬きをする間もなく、だ。
ヘルメッポ「おい!?ど、どうなってやがるんだアイツ…」
コビー「な、なんだったんだ…」
放心状態の2人。ただひとつ、確かに2人に共通する意識があった。
「なんであんなに色っぽくなるんだ。」
どこに行っても落ち着かない視線から、逃げるように人気のない部屋へと駆け込む。
懐から煙草を出し、慣れた手つきで火をつける。
…つけようとする。が、オイルが切れているのか火打ち石が火花を散らすだけで、全く火がつかない。
「…随分お疲れのようだな。」
そう声がかかり、振り向けば煙を纏って現れる男。スモーカーだ。
『…スモーカーさん。火ィ、貸してくれねぇか。』
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作者名:みるつき | 作成日時:2022年9月27日 7時