12歩目 ページ14
あれは確か、母さんが事故死して半月が経った頃だった。これからの事をどうするか決め、父がAを一人で育てることを決心した辺りだ。
家に入りたくなかったあの事件の後、小学生なりに父に迷惑を掛けないよう頑張っていたある時、たった一度だけ父が涙を流して本音を溢したことがある。
『Aの目の色を見ると、咲希(ｻｷ)を思い出すんだ……よく、似ているから』
咲希はAの母の名だ。Aの宝石のような綺麗な金色の瞳は母譲りだった。だからこそ、母を愛していた父には辛い。小学生のAにとって父のその言葉は“見たくない”と言われているように感じたから、Aは前髪で瞳の色を隠すようになった。
「この眼鏡は伊達なんだ。度が入ってない。……少しでも、目が隠れるようにしたかった」
Aはそう言いつつ眼鏡を外した。黒縁の眼鏡を机に置く。しばらくの間、辺りは二人の呼吸の音が響いた。Aは膝の上で手を固く握っている。そうしないと、涙が零れそうだからだ。
「兄さん」
蒼は身を乗りだしAの長い前髪を上げた。宝石には涙が溜まり今にも零れ落ちるぎりぎりだ。
「俺は兄さんの目の色、好きだよ」
Aはゆっくりと顔を上げる。潤んだ金色の宝石には蒼が映った。初めて見る、Aの顔。あまりの綺麗さに蒼は目を見開いた。瞳だけでなく、Aの容姿全てに。
透き通るような白い肌、艶のある黒髪に、全体的に整っている顔立ち。かっこいいではなく、綺麗と表現するのが正しい。隠しているのが勿体無い。
「いつも思ってた。宝石みたいにキラキラしていて、綺麗だなって。自覚あるか分かんないけど、兄さんは笑うとき首を傾けるんだ。その目初めて見たとき、口が勝手に綺麗って言っちゃうくらい見とれたんだよ」
紛れもない本心だ。宝石には真剣な顔をする蒼が映っている。その思いはきっとAにも伝わっただろう。
「……え？」
Aの頬が朱色に染まる。綺麗な顔はこんなふうに赤くなっていたのか。今まで見ていなかった自分は惜しいことをしていたと蒼は思った。
「だからさ、」
黒髪をあげていた手を離しAの隣に移動する。それからもう一度髪を上げ、今度はヘアピンで留めた。
「俺と二人の時だけ、見せてくないかな？」
駄目？と蒼は首をかしげる。ぱちぱちと瞬きしたAは目元を拭った。
「ううん。ありがとう、蒼」
黒髪を上げてからの笑顔は、綺麗であどけないもので。
蒼の心はギュッとつままれたように不思議な痛みを訴えた。
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埋夜冬(プロフ) - 名無しさん» 読んでいただきありがとうございます！ありますよー！蒼くんの方が高いです！そうですねぇ、大体10センチくらい差があると思っていただければ！ (2022年3月19日 7時) (
レス) id: 19b82d3da7 (このIDを非表示/違反報告)
名無し - 身長差とかってあるんですかね (2022年3月19日 3時) (レス) id: 39136fade0 (このIDを非表示/違反報告)
名無し - お伺いしたいことがあるんですが (2022年3月19日 3時) (レス) id: 39136fade0 (このIDを非表示/違反報告)
埋夜冬(プロフ) - 古紗雪さん» 待っててくださりありがとうございます！更新頑張りますね！もうガン見しててください(笑) (2019年2月28日 22時) (レス) id: 59284e1a90 (このIDを非表示/違反報告)
埋夜冬(プロフ) - 龍晴さん» そろそろ続編にいきますよ！そこで完結です！夢主くんと蒼くんはどうなるのか！？麗は成敗出来るのか！？モモの正体は！？乞うご期待ですよ！ (2019年2月28日 22時) (レス) id: 59284e1a90 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：埋夜冬
| 作成日時：2018年12月28日 1時
