9歩目 ページ11
あの後教室に戻るとファンからの追撃が凄まじかった。「なんで何処か行く必要があったの」「口塞ぐって何様のつもり」等々、答えたらAの学園生活がアウトになってしまうものばかりだった。出任せでしのいだあの時の自分を誉めてやりたい。
さて、そんなことは置いておいてAは今から料理を作る。メインはハンバーグ。付け合わせの野菜もしっかりある。準備は万端。
エプロンを付けて腕捲りをしたところで蒼がキッチンに来た。
「手伝うよ」
「あ、うん」
仕事で疲れて帰ってくる父と優香里さんの分も合わせて作る。玉葱などを切ってタネを作っていると蒼が思い付いたように話し出した。
「学校で兄さんって呼ぶの、駄目なの?」
「だ、駄目だよ」
タネを作りつつ米研ぎをしている蒼を見ると、キョトンとなっていた。いや何だその顔は。
「何で?」
何でときたか。そうきたか。もしかして蒼は天然なのだろうか。
「えっと……いきなり名字が変わったら周りも混乱するし、あと……」
僕が目立ちたくないから。とはストレートに言いにくい。今日の時点でだいぶ目立っているし。
「周りの反応も気になる?」
言葉を探していると蒼が後を引き継いだ。
「そう、それ」
言いたいことは大方合っている。Aはうんうんと頷いた。
「そっか……。でも、兄さんの嫌がることはしないつもりだから。これから学校ではA先輩って呼ぶね」
出来れば名字の方が……と言いたかったが今日呼んでしまったのだ。そこはもう仕方ない。
「なんか……ごめん」
少し悲しそうに笑う蒼に罪悪感が募る。イケメンのその顔は罪悪感を募らせるのか、とAの冷静な心の部分は思っていた。
「あ……」
どうやら捲りが弱かったらしい。左腕の袖が下がってきてしまった。右手はタネ作りで汚れている。少し面倒だが仕方ない。手を洗おうか。
「どしたの?ああ、直そうか」
ちょうど米研ぎを終え炊飯スイッチを押した蒼が気付いた。そして、
「ッ―――――――――――!!」
背中に伝わる、体温。
蒼は後ろから抱きしめる形でAの袖を捲った。柔軟剤の香りと耳もとで感じる呼吸の音。慣れない人との至近距離でAの心臓はドキドキと音を立てていた。
「よし。……あれ?兄さん、大丈夫?」
「だ、大丈夫!ありがとう」
蒼が離れても、柔軟剤の香りは消えなかった。心臓はまだ音を立てている。きっと顔は真っ赤なのだろう。体が熱い。
気付いてないといいけれど、とAは蒼をちらりと見た。
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埋夜冬(プロフ) - 名無しさん» 読んでいただきありがとうございます!ありますよー!蒼くんの方が高いです!そうですねぇ、大体10センチくらい差があると思っていただければ! (2022年3月19日 7時) (レス) id: 19b82d3da7 (このIDを非表示/違反報告)
名無し - 身長差とかってあるんですかね (2022年3月19日 3時) (レス) id: 39136fade0 (このIDを非表示/違反報告)
名無し - お伺いしたいことがあるんですが (2022年3月19日 3時) (レス) id: 39136fade0 (このIDを非表示/違反報告)
埋夜冬(プロフ) - 古紗雪さん» 待っててくださりありがとうございます!更新頑張りますね!もうガン見しててください(笑) (2019年2月28日 22時) (レス) id: 59284e1a90 (このIDを非表示/違反報告)
埋夜冬(プロフ) - 龍晴さん» そろそろ続編にいきますよ!そこで完結です!夢主くんと蒼くんはどうなるのか!?麗は成敗出来るのか!?モモの正体は!?乞うご期待ですよ! (2019年2月28日 22時) (レス) id: 59284e1a90 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:埋夜冬 | 作成日時:2018年12月28日 1時