62冊目 ページ23
その日の夜、Aは死にそうな顔をして凛音の家に帰ってきた。お疲れ様、とココアを出す。
「どうだった？出版社は」
「端的に言うと、なにも怒られなかったよ。嘉川先生はクビにしてた自分の編集者を戻してたし、愛川編集長はこのことを知らなかった」
Aは愛川が今回のことを何も知らないと知り、とても驚いた。嘉川はどういう心理で言っていないのだろうか。何が何だか分からないが、湊と離れるまではもう少しタイムリミットがあることに心から安堵した。
「それで？」
「え？」
話はそれで終わりだけど……。と首を傾げるとため息を付かれた。
「だーかーら、今後あの残念イケメンとはどうしていくのって話。専属やめさせてもらうの？」
「それは嫌だ！！」
専属をやめる？そんなことしたくない。今後とも湊とも湊の作品を編集するのは自分がいい。
「じゃあ逃げてないで話さなきゃ」
Aは言葉に詰まった。まあ遅かれ早かれ湊から連絡があると思うが。
ブーッとAの携帯が鳴る。どうやらメールのようだ。差出人は『湊先生』。
相変わらず決めたら行動が早いな。
Aは顔を強ばらせながらメールを開く。内容は『話がしたい。』ただそれだけ。
時間も何もない。今から行くべき？行きたいけど、怖い。湊がじゃなくて、専属を辞めてくれという話をされるかもしれないことが。
「もう何迷ってるの！？好きなんだから飛び出して行くぐらいの愛でも見せてよ」
「え！？り、凛音、何で俺が湊先生のこと好きって……！！」
慌てるAに、凛音は笑った。それは、今まで見てきた親友としての笑みだった。
「分かるよ。だって、一番近くでAのこと見てきたから」
だって、一番Aのことが好きだから。
「ちゃんと話してきなよ。あの作家が怒った理由ちゃんと分かったでしょ。Aは、大切にされてるんだよ」
行ってこい！というと泣きそうに瞳を潤ませたAは強く頷いた。
「ありがとう凛音。俺、行ってくる！」
走り出す足音。扉がバタンと閉まる音。すぐに凛音の部屋は静かになる。
「は〜あ、ちゃんと告白する前にフラれちゃったな〜」
自嘲気味に笑う瞳からは雫が溢れる。
「本気で好きだったよ、A」
昔から、ずっと。片想いだと分かっていても。
声に出して言ったのは自分の中で区切りを付けるためだ。
僕じゃAを幸せに出来ないと分かっているから。だから想うのも、これで終わり。
――――――――――――――「頑張れ」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 702人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
埋夜冬(プロフ) - 白澤 晴夜さん» ありがとうございます！返信遅れてごめんなさい！キュンキュン出来ていたなら良かったです(*´ω｀*) (2019年12月14日 13時) (
レス) id: 87a5a46f37 (このIDを非表示/違反報告)
白澤 晴夜(プロフ) - 完結おめでとうございます！！もう最後までキュンキュンしながら読ませて頂きました〜！！この2人には、これからも永遠に幸せでいて欲しいです！！これからも頑張ってください！応援してます！ (2019年12月13日 22時) (レス) id: 5742d2c832 (このIDを非表示/違反報告)
埋夜冬(プロフ) - ゼロさん» 返信遅くなりすみません！ドキドキしていただけたなら作者も満足です！次回作もよろしくお願いします！ (2019年12月7日 10時) (レス) id: b51b60f8c3 (このIDを非表示/違反報告)
埋夜冬(プロフ) - 唳桜さん» 返信遅くなりすみません！可愛く書けていたなら良かったです！次回作も作ったのでぜひ読んでみてくださいね！この作品を読んでいただきありがとうございました！ (2019年12月7日 10時) (レス) id: b51b60f8c3 (このIDを非表示/違反報告)
ゼロ - とても面白かったです。僕自身とても好きなジャンルで読んでてとてもドキドキしました！完結おめでとうございます。これからも応援しています。頑張って下さい(^▽^)/ (2019年12月1日 11時) (レス) id: aaae856515 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：埋夜冬
| 作成日時：2019年8月10日 22時
