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愛川の電話の言葉からするにAはまだ知らないことなのだろう。でも、もし仮に愛川の言う“大先生”が編集者にしたいと言っているのであれば、
「―――俺に、勝ち目がない」
出版社や湊が言う“大先生”。それは、
湊もベストセラー作家だが、誠一郎の方がベストセラー数も多いしファンも多い。誠一郎から「ぜひAを私の編集者に」なんて言われてしまえば、湊から誠一郎の専属編集者になることなど目に見えている。
「そ、その……出ました」
Aが窺うようにリビングに戻ってきた。風呂に行く前についた分かりやすい嘘のことを気にしているようだ。
「ごめんA。俺勘違いしてたみたいで。あの言葉を聞いてから、もしかしたらAが俺の編集者を辞めると思ってたからさ。違うならそれでいいんだ」
それを聞いてAはホッと力を抜いた。
「辞めませんよ。前にも言いましたけど、俺はこれからも湊先生の編集者を続けたいと思ってますから」
何かを秘密にされているのは何だかチクリと痛むが、誰にだって知られたくない秘密はあるものだ。仕方ないと割り切ろう。
ありがとう、とAの髪を撫でた手はそのまままだ濡れている髪を拭いた。
「まだ熱あるの忘れてない?ちゃんと拭かないとぶり返すよ」
「わ!?じ、自分で出来ますよ!」
「いいから」
ガシャガシャと拭かれていた髪が止まる。
「少しは頼ってもいいよ。俺じゃ出来ること少ないだろうけど、掃除とかならやれるからさ」
Aの頬が赤く染まった。驚いたように湊を見たAの瞳はすぐに悲しそうに伏せられる。
「ほら、座って」
コンセントに予備のドライヤーを繋げてスイッチを入れる。ゴーッと大きい音が響いた。湊は濡れている髪を乾かし始めた。
「……優しくなんて、しないで」
その小さな声はドライヤーの音に掻き消された。
優しくしないで。両想いだと勘違いしてしまいそうになる。苦しくなるのは自分だと分かっていても。
風邪が治らなかったら、こうしてずっと触れてくれるかな?
なんて、馬鹿らしい考えは捨てないと。
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埋夜冬(プロフ) - 白澤 晴夜さん» ありがとうございます!返信遅れてごめんなさい!キュンキュン出来ていたなら良かったです(*´ω`*) (2019年12月14日 13時) (レス) id: 87a5a46f37 (このIDを非表示/違反報告)
白澤 晴夜(プロフ) - 完結おめでとうございます!!もう最後までキュンキュンしながら読ませて頂きました〜!!この2人には、これからも永遠に幸せでいて欲しいです!!これからも頑張ってください!応援してます! (2019年12月13日 22時) (レス) id: 5742d2c832 (このIDを非表示/違反報告)
埋夜冬(プロフ) - ゼロさん» 返信遅くなりすみません!ドキドキしていただけたなら作者も満足です!次回作もよろしくお願いします! (2019年12月7日 10時) (レス) id: b51b60f8c3 (このIDを非表示/違反報告)
埋夜冬(プロフ) - 唳桜さん» 返信遅くなりすみません!可愛く書けていたなら良かったです!次回作も作ったのでぜひ読んでみてくださいね!この作品を読んでいただきありがとうございました! (2019年12月7日 10時) (レス) id: b51b60f8c3 (このIDを非表示/違反報告)
ゼロ - とても面白かったです。僕自身とても好きなジャンルで読んでてとてもドキドキしました!完結おめでとうございます。これからも応援しています。頑張って下さい(^▽^)/ (2019年12月1日 11時) (レス) id: aaae856515 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:埋夜冬 | 作成日時:2019年8月10日 22時