40冊目 ページ43
Aの行動を疑問に感じた湊はAがお風呂に入っている間に愛川に連絡することにした。内容はもちろん、専属を辞めるのかについてだ。
〔もしもし、愛川です。久しぶりですね、九条先生〕
「どーも」
愛川はAが来るまで湊の世話をしていた。来れる回数は少なかったが、湊の事情を一番理解していて、さらに湊を扱えるのは愛川だけだったからだ。
〔珍しいですね、先生から電話なんて〕
「少し話したいことがあったので」
愛川には今まで作品を編集してもらった恩があるので、湊はあまり愛川に逆らえない。編集長が愛川なので締め切りは守る。湊にとって愛川は家族のような存在だった。
〔どうかしましたか?〕
専属を辞める件を肯定されたらどうしよう、と湊は不安だ。しかし自ら動かない無気力な自分が電話を掛けることまでしたのだから、もう聞くしかない。
一度、深く深呼吸をした。
「Aは、俺の専属を辞めるの?普通の編集者に戻る?」
しばらく空間を支配した沈黙。それは肯定と受けとるべきなのだろうか。
〔―――いえ、そんな話、時ヶ瀬くんからも聞いてませんよ〕
詰まっていた息がやっと心の底から吸えたような気がした。
Aは普通の編集者に戻らない。まだ専属のままということだ。この家で湊だけの作品を見てくれる。そのことに安堵した。
〔何故そんな話が……?〕
困惑気味に愛川が聞いてきたので、湊は最近感じていた壁の話とあの台詞のことを話した。
「だから、専属とか、悪ければ俺の作品の編集を辞めるのかと思って止めようとした」
専属を辞めるにしても編集を辞めるのは全力で阻止したかった。Aがいないと湊の人生がとんでもないことになってしまう。
〔九条先生が気に入ってる編集者を引き剥がして困るのはこちらですからねぇ。しませんよそんなこと〕
つまり今後離されることはない。湊はホッと息を吐いた。
〔ただ――――――――〕
「………え?」
愛川から聞いたその言葉に呆然とした。
〔ん?ああ、すぐ行くよ!…すみません九条先生、何かトラブルがあったみたいなのでかけ直します〕
「あ、ちょっ……!」
電話は既に切れていた。先ほどの愛川の言葉通りならAはどちらにしろ専属を辞めなければならないかもしれない。
どうしよう嫌だ嫌だ嫌だッ…!!でもどうしようも出来ないかもしれない!!
湊は今までにない程強く拳を握った。
『ただ、ぜひ作品を編集してほしいと仰る“大先生”はいますよ』
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通りすがりの葉っぱ(プロフ) - 有難うございます! (2019年8月17日 12時) (レス) id: a112452463 (このIDを非表示/違反報告)
埋夜冬(プロフ) - 通りすがりの葉っぱさん» ない……ですね。設定してませんでした。私は妄想するとき夢主くんを「涼(りょう)」と呼んでます!自由に付けてくださって大丈夫ですよ!! (2019年8月17日 0時) (レス) id: 59284e1a90 (このIDを非表示/違反報告)
通りすがりの葉っぱ(プロフ) - 主人公の名前って設定無しだと何になりますかね? (2019年8月16日 14時) (レス) id: a112452463 (このIDを非表示/違反報告)
埋夜冬(プロフ) - アリアさん» そ、そんな……!(照)ありがとうございます!ライバルというか引っ掻き回すというかーって感じなんですけど、その分キュンキュン度をあげていきたいと思います!お楽しみに!!☆ (2019年8月10日 0時) (レス) id: 59284e1a90 (このIDを非表示/違反報告)
アリア - えちょっと続編すっごい面白そう...いや、この作者を疑うのは止めよう。絶対面白いよ!凜音の小説も待ってます☆ (2019年8月9日 18時) (レス) id: 39676cde20 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:埋夜冬 | 作成日時:2019年4月23日 23時