38冊目 ページ41
倒れてから起きてこないAのことを湊はずっと心配していた。息は苦しそうだし、顔は赤かったのにどんどん青ざめていくから暑いのか寒いのか分からない。
病人の介抱なんてしたことがないからどうしたら良いのかさっぱりだ。その日、湊は心配でAの近くの床に眠ったのだった。
次の日起きても湊はお腹が空いていなかった。そもそも自分では作れないし、多分何日か食べなくても大丈夫だと自負している。そういう不安定な生活を送っていたから。
昼になって首に巻いておいたタオルを替えたときにAが起きた。本当に良かった。今日も起きなかったら病院に行くところだった。
熱のせいで退社とか言い出したが、退社された場合困るのは湊であり、湊が困ると困るのは出版社だ。Aは退社にならないしさせない。
それにしても、だ。
『……その、忙しい、なら、いいんですけど、寝るまで、側に、いてくれると、嬉しいです』
熱が出ると寂しく感じる、と聞いたことはあったがこれは予想以上の破壊力だ。何だあのキュッと袖を掴む仕草は。あれは20代の男性がしても可愛いと思える仕草だったのか。知らなかった。それともAだから可愛く見えたのか?
潤んでいる瞳や吐息混じりの小さな声。いつもなら頼まない素直な気持ち。いつものAも可愛いが、熱になると素直なお願いが出てくるので余計可愛い。
「……もっと素直になってくれていいのに」
会えなかったというせいもあるだろうが、最近は特に余所余所しく感じた。普通に会話しているはずなのに何だか壁を感じていたのだ。
自分のなかでは、やはり専属ではなくなるのかもしれないという考えが再発していた。心なしか壁を感じたのはそのためではないのか。嫌だと思う反面、編集者としては正しい道なのだから応援しなければ、とも思う。
その件を考えると、胸の辺りがモヤモヤとする。
「……何だかなぁ」
あの編集長のにでも聞いてみようか。
そこで湊は考えることを辞めた。小説以外でそんなに頭脳を使いたくない。
ポンポンとAの頭を撫でていたところ気付いたらAが寝ていた。それでいい。ゆっくり休んでほしい。Aがいないと困るのだ。大丈夫かと気になって何事にも集中できない。
「できれば、ずっとここにいてね」
これからも良い作品をたくさん書くから、Aだけは俺から離れないで。
これは湊の我が儘であり、ある意味呪いの言葉だ。Aを離さない呪い。
叶えばいいのに。
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通りすがりの葉っぱ(プロフ) - 有難うございます! (2019年8月17日 12時) (レス) id: a112452463 (このIDを非表示/違反報告)
埋夜冬(プロフ) - 通りすがりの葉っぱさん» ない……ですね。設定してませんでした。私は妄想するとき夢主くんを「涼(りょう)」と呼んでます!自由に付けてくださって大丈夫ですよ!! (2019年8月17日 0時) (レス) id: 59284e1a90 (このIDを非表示/違反報告)
通りすがりの葉っぱ(プロフ) - 主人公の名前って設定無しだと何になりますかね? (2019年8月16日 14時) (レス) id: a112452463 (このIDを非表示/違反報告)
埋夜冬(プロフ) - アリアさん» そ、そんな……!(照)ありがとうございます!ライバルというか引っ掻き回すというかーって感じなんですけど、その分キュンキュン度をあげていきたいと思います!お楽しみに!!☆ (2019年8月10日 0時) (レス) id: 59284e1a90 (このIDを非表示/違反報告)
アリア - えちょっと続編すっごい面白そう...いや、この作者を疑うのは止めよう。絶対面白いよ!凜音の小説も待ってます☆ (2019年8月9日 18時) (レス) id: 39676cde20 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:埋夜冬 | 作成日時:2019年4月23日 23時