2冊目 ページ4
ピンポーンという軽快な音がしたあと
[はい…]
と気だるげな低音が聞こえてきた。九条は男性らしい。
「あのっ、今日から小野寺出版に入社した時ヶ―――――」
[ちょ、ちょっと落ち着け。とりあえず門は開いてるから、中に入ってきて]
「あ、すみません!」
なんて謝る隙なく九条はインターフォンを切った。
Aは急いで黒い門をくぐる。この家中庭がある。広い。1度でいいからこんな豪邸に住んでみたいものだ。
玄関の前に来ると、ガチャリと扉が開いた。
出てきたのは、肩に掛かるウェーブした黒髪を結んでいる、猫のように鋭く透き通った紫の瞳をした美形な男性だった。性別という括りでいいのかすら不安になる。
「とりあえず入って」
「あ、はい!」
いけない。見つめるのは失礼だ。気を付けなければ。
九条の家に入ったAはできるだけ気付かれないように辺りを見回した。やはり豪邸だ。
「ここ」
九条に案内されたのは応接間。中に入ると扉を閉めた九条は、はぁーっと深くため息を吐いた。
「君が新しい編集者の人?」
「はい!今日入社した時ヶ瀬Aです。よろしくお願いします」
この方が大人気作家様…!
改めて見ると確かにこの人なら恋愛経験が豊富そうだ。顔も体格も文句なし。自分が女子だったらとっくに惚れていただろう。
キラキラと尊敬と憧れの眼差しを受けた大人気作家様は、普段向けられない瞳に若干引いた。
基本的に眩しいものは苦手なのだ。それが例え人だろうと。
「あー……色々言いたいことがあるけど、面倒だから1つだけ言う。
人ん家の前で堂々と個人情報晒さないでくれる?何道路でフルネーム言おうとしてるの」
そういえばそうだ。会いたい気持ちが先走って周りのことが見えていなかった。大事なのは、
「客観的視野」だ。
「すみません!大人気作家だって言うから、気持ちが先走ってしまって……」
シュンとなると九条はまたため息を吐いた。
「えーっと時ヶ瀬?だっけ。君、料理できる?」
いきなりの脈略のない質問に、一瞬ポカンとしたAは慌てて答える。
「はい、出来ます!」
「掃除は?洗濯は?」
「人並みには。一人暮らしなので」
一体これは何の質問なのだろう。大人気作家は他と目の付け所が違うのか。なるほど納得だ。
「……そう」
ならば良しと九条は1人頷いた。何が「良し」なのかAにはちんぷんかんぷんだ。
一先ず何にしても「良し」たであるならいいか、とAはホッと息をついた。
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通りすがりの葉っぱ(プロフ) - 有難うございます! (2019年8月17日 12時) (レス) id: a112452463 (このIDを非表示/違反報告)
埋夜冬(プロフ) - 通りすがりの葉っぱさん» ない……ですね。設定してませんでした。私は妄想するとき夢主くんを「涼(りょう)」と呼んでます!自由に付けてくださって大丈夫ですよ!! (2019年8月17日 0時) (レス) id: 59284e1a90 (このIDを非表示/違反報告)
通りすがりの葉っぱ(プロフ) - 主人公の名前って設定無しだと何になりますかね? (2019年8月16日 14時) (レス) id: a112452463 (このIDを非表示/違反報告)
埋夜冬(プロフ) - アリアさん» そ、そんな……!(照)ありがとうございます!ライバルというか引っ掻き回すというかーって感じなんですけど、その分キュンキュン度をあげていきたいと思います!お楽しみに!!☆ (2019年8月10日 0時) (レス) id: 59284e1a90 (このIDを非表示/違反報告)
アリア - えちょっと続編すっごい面白そう...いや、この作者を疑うのは止めよう。絶対面白いよ!凜音の小説も待ってます☆ (2019年8月9日 18時) (レス) id: 39676cde20 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:埋夜冬 | 作成日時:2019年4月23日 23時