66歩目 ページ28
午後2時。Aは蒼に言われた通りホールの裏へ来ていた。パンフレットにはピアノ演奏とだけ書いてあったが、もしかして蒼がピアノでも弾くのだろうか。
「あ、A！こっち」
蒼の声が聞こえたのでそちらを見たAは、蒼の服装に驚いた。
「そ、蒼！？どうしたのその格好……！」
白い服に金のボタン。先に向かって細くなっているズボン。蒼の服装はまさしく王子そのものだった。
「あぁ、桃華先輩が作ってくれたんだ。似合ってるかな？」
微笑んで首を傾げる姿が眩しい。これを似合っていないという人が居たなら、今すぐ眼科と脳神経外科を勧めているところだ。
あまりのかっこよさにAは頬を染める。
「うん！それはもちろん凄く似合ってるけど……どうしてそんな格好なの？」
「ピアノ弾くんだ」
やっぱりー！とAは心で叫んだ。
「当日のお楽しみだったから、Aにも秘密だったんだ」
近づいた蒼はAの頬に手を添える。Aを見つめる瞳は甘い雰囲気を醸し出した。
「もうすぐ本番なんだ。聴いてくれる？」
「もちろん」
蒼から目を逸らさずAは言う。笑みを深めた蒼の顔が、ゆっくり近づいてきた。
ちゅっ
「ッ――！？」
「うん、充電完了」
頬に添えられていた手が髪を撫でる。家にいるときと同じリラックスした顔で蒼は頬を緩めた。
「Aのために弾くから、俺から目、逸らさないでね」
ぶわわっと急速に顔の熱が上がった。ポンポンと頭を撫でられ、あんな蕩けた顔で言われたら再度恋に落ちる音がなっても仕方がない。
「あ、演奏が終わったらまたここに来てくれる？」
Aは表情が固まったまま頷いた。
赤くなった顔を見て満足したのか蒼は上機嫌で舞台裏に消える。いい演奏が出来そうだ。
「……もともと、蒼しか目に入ってないよ」
なんて。恥ずかしくて蒼の前では言えないけれど。
ホール内。蒼が弾くと知らないからか人はそんなにいなかった。おかげでAはいい席を取ることが出来た。蒼のピアノ演奏、楽しみだ。
蒼が出てくるとまばらにいた観客からは黄色い悲鳴があがる。それを蒼は人差し指を唇に当てウインクで黙らせる。かっこよすぎてしんどい。
それからキラキラな王子様は圧巻のピアノ演奏をした。それはもう音楽によって感情が動かされていると感じる程に。
僕の恋人は、こんなにすごい。
演奏が終わり拍手を送りながら、Aは輝く笑顔でお辞儀をしている蒼を優しく見つめた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1325人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
埋夜冬(プロフ) - ｳｪｰｲさん» 喜んでいただけているご様子ですね！嬉しいです！ (2021年7月10日 22時) (
レス) id: f9a8d8c7d5 (このIDを非表示/違反報告)
ｳｪｰｲ - (*＾▽＾*) (2021年7月10日 22時) (レス) id: 600bb56534 (このIDを非表示/違反報告)
トマトジュース - アギャァァァァァァ！！無理尊い、辛い、泣けるンゴ、吐血するンゴ、つかしたんご (2019年9月19日 22時) (レス) id: b4078055ec (このIDを非表示/違反報告)
カナ - （＾∇＾） (2019年7月13日 14時) (レス) id: 99b9fc8fa9 (このIDを非表示/違反報告)
埋夜冬(プロフ) - カナさん» ありがとうございます！もうすぐ終わりますのでお楽しみに☆ (2019年7月12日 7時) (レス) id: 59284e1a90 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：埋夜冬
| 作者ホームページ：http://uratuku/sounewawawa1
作成日時：2019年3月5日 23時
