兎25匹 ページ28
「……なぁ」
しばらくの沈黙。心のなかはお互い言いたいことが募っていくのに、言葉にはできない。その沈黙を破ったのはAだった。
「何ですぐ手当てしんかったと？」
怒りと、何故か悲しみの混じった声。下を向いている横顔は今どんな顔をしているのか、彩兎には見えなかった。
「消化に夢中だったんですよ。それに私は保健教諭ですから、この程度なら大丈夫だとわかります」
「ッ！どう見たら大丈夫と思うんかいな！ちゃんと見ぃ！こげん赤く腫れとって……！！」
勢いよくこちらを向いた顔は声と同じ、怒っているし、悲しんでいる、そんな顔だった。
「……どうして、怪我していると分かったんですか？」
彩兎は火傷を負ったことを誰にも言っていない。ポケットで隠していたし、いつも通り接していたはずだ。
「あんたは人と話すとき、ポケットに手ぇ突っ込んだまま話すような人じゃなか。なら隠しとる理由がある。あの状況なら、何でかぐらい想像つくたい」
彩兎のことは保健室登校し続けたAが、この学校で一番理解しているだろう。なんなら、彩兎が無意識にやっていたことも。
全く意識していなかったことを指摘され、彩兎は呆けた顔をした。つまりAは彩兎の変化を“なんか違う”と見分けられるようになったのだ。
Aは怪我をしていない彩兎の左手に自分の手を重ねた。
「心配で、心臓止まるかと思ったばい」
ぎゅっと手に力が込められる。下を向いているAの瞳には涙が溜まっていて、今にも零れ落ちそうだ。
「最近右ばっかり怪我しとったろ？それも俺が喧嘩してから。もし、俺が近くに居るせいやったらどうしようって思って……。あんたが傷つくくらいなら、離れたほうがマシばい」
「だから、保健室に来なくなったんですか？」
Aは頷いた。瞳に溜まった涙が零れてソファーを濡らす。空いている手で乱暴に涙を拭った。
失敗だった。彩兎はそう思った。あの作戦が上手くいくにはAは優しすぎた。まさか自分のせいと思うなんて。
いや、Aは優しい。それは彩兎が一番理解していた。Aが彩兎を理解しているのと同じように。
「ごめんなさい。本当に最近右ばかり怪我するんです。ただの偶然ですよ。天崎くんが気に病む必要はありません」
ああ、じゃあもうあの方法しかないじゃないか。一気にとばして最終作戦だ。
Aを慰めるために髪を撫でながら彩兎は静かに考えを巡らせた。
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埋夜冬(プロフ) - 。#vllさん» そうなんですか！？これの発案者は作者のお友達なんですけど、その子がどうしても兎を名前に入れたいって言ってました。ヤンデレ好きなので関係しているかもしれないですね！最後までお読みくださりありがとうございました！ (2019年10月25日 23時) (
レス) id: 59284e1a90 (このIDを非表示/違反報告)
。#vll - 兎系の人はやんでれと聞いたことがあります、彩兎くんの名前と関係してそー。と勝手に考えていました。とても面白い作品でした。♪ヽ(´▽｀)/ (2019年10月25日 12時) (レス) id: 01ebef5845 (このIDを非表示/違反報告)
埋夜冬(プロフ) - 紫園さん» どうもありがとうございます！二人とも尊く書けたのからよかったです！方言は私も書いてて楽しかったです！この作品を好きになっていただきありがとうございました！ (2019年5月1日 18時) (レス) id: 59284e1a90 (このIDを非表示/違反報告)
紫園(プロフ) - 最後までお疲れ様でした！本当に尊い2人です(´；ω；｀)方言とかも最高でした！ (2019年4月28日 16時) (レス) id: a3fbe17e50 (このIDを非表示/違反報告)
埋夜冬(プロフ) - 李守文さん» 嬉しい限りですありがとうございます！！！私も博多弁書いてて楽しかったです！そして同じように日常で使いました(笑) 今後も作品を出していきますのでどうぞよろしくお願いします！この作品を好きにいただいてありがとうございました♪ (2019年4月27日 22時) (レス) id: 59284e1a90 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：埋夜冬
| 作成日時：2019年1月26日 16時
