兎24匹 ページ27
火事騒動も収まり校長と理事長に厳重注意を受けた彩兎はようやく保健室に戻ってきた。幸いに火傷はバレなかったことは奇跡だと思う。
日頃の行いが幸いしてかこってり搾られることはなかったが、これからは気を付けて扱ってくれ、という系統の話を何度もされるとさすがに疲れた。
こんなときでも保健室に戻ればAがいる現実が、どんなに彩兎の心の支えになっていただろう。Aはそんなこと知らないのだ。片想いだと思っているから。
あれだけ毎日保健室に来て、備品を買いに行くのにもついて来てくれて、守ってくれて、彩兎にだけ笑ってくれて、彩兎にだけ自分の過去を話してくれて。彩兎だってとっくにAに恋しているのだ。彩兎の心のなかでAがどんなに大きな存在になっているのか、彼は知らない。
「……いつになったら、貴方は会いに来てくれるんですか?」
誰もいない保健室で独りごちてから、嗤う。こんなこと言ったって来てくれるわけがない。
嗚呼、やはり恋心を自覚し始めた辺りで拉致しておけば良かった。
その時、勢いよく扉が開いた。乱暴な開け方。でもそれは、彩兎が懐かしく思う開け方だった。
「ッ、天崎く―――――!!」
「あんた何しとーと!?」
胸ぐらを掴まれ怒っている紅い瞳と目が合った。久々に見る顔が、彩兎が不良に殴られたあの時と同じように怒りに染められている。何故Aがこんなにも怒っているのか彩兎には分からない。
「そこ座らんかいな!はよせい!」
胸ぐらを掴んでいた手を離したかと思うとおもいっきり怒鳴られた。逆らうともっと酷くなりそうなことだけは分かったので、彩兎は言われるままソファーに座る。
Aは桶に氷水を張り、タオルを何枚も取って戻ってきた。
「右手、はよ出すばい」
「えっ、」
「はよせな!」
彩兎は恐る恐る右手を出す。熱を持ちすぎておかしくなっている右手は赤く腫れ上がっていた。応急措置をしなかったせいだ。脳の冷静な部分は、跡になってしまうなと他人事のように言った。
「何でこがんこつになるまでほっといたと!?あんたそれでも先生かいな!!」
言葉は乱暴だが、氷水につけさせる手は優しい。刺激を与えないよう先から少しずついれている。冷たい水だが火傷の酷い部分はとくに何も感じなかった。
「天崎くん、今は授業中なのでは…」
「知らん。あんたの方が重要ばい」
……そうか。心配して来てくれたのか。
ではAが怒っているのは彩兎が怪我を隠していたから?
そう考えて彩兎はにやけるのを止めれなかった。
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埋夜冬(プロフ) - 。#vllさん» そうなんですか!?これの発案者は作者のお友達なんですけど、その子がどうしても兎を名前に入れたいって言ってました。ヤンデレ好きなので関係しているかもしれないですね!最後までお読みくださりありがとうございました! (2019年10月25日 23時) (レス) id: 59284e1a90 (このIDを非表示/違反報告)
。#vll - 兎系の人はやんでれと聞いたことがあります、彩兎くんの名前と関係してそー。と勝手に考えていました。とても面白い作品でした。♪ヽ(´▽`)/ (2019年10月25日 12時) (レス) id: 01ebef5845 (このIDを非表示/違反報告)
埋夜冬(プロフ) - 紫園さん» どうもありがとうございます!二人とも尊く書けたのからよかったです!方言は私も書いてて楽しかったです!この作品を好きになっていただきありがとうございました! (2019年5月1日 18時) (レス) id: 59284e1a90 (このIDを非表示/違反報告)
紫園(プロフ) - 最後までお疲れ様でした!本当に尊い2人です(´;ω;`)方言とかも最高でした! (2019年4月28日 16時) (レス) id: a3fbe17e50 (このIDを非表示/違反報告)
埋夜冬(プロフ) - 李守文さん» 嬉しい限りですありがとうございます!!!私も博多弁書いてて楽しかったです!そして同じように日常で使いました(笑) 今後も作品を出していきますのでどうぞよろしくお願いします!この作品を好きにいただいてありがとうございました♪ (2019年4月27日 22時) (レス) id: 59284e1a90 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:埋夜冬 | 作成日時:2019年1月26日 16時