願い 35 ページ36
大丈夫、大丈夫。意識を失うまで少し時間がある。カラオケ帰りに倒れた時、歩くぐらいの余裕があったのだ。だから、もう少し、大丈夫。
目を開ける。焦点を合わせようと頑張ると、酷く顔を歪めた悪魔が叫んでいた。
「だい、じょ、ぶ…」
「大丈夫じゃないだろ!医者を呼ぼう!携帯はどこだ!?」
「言ったって…悪魔には触れないじゃん…」
その通りだった。悪魔は何にも触れられない。でもこの状況に何も出来ないのは嫌だ。どうしたらいい?何をすればAを救える?
「……なぁ願ってくれ!助けてと!病気を治してと!嫌なんだ……死んで欲しくない……!」
自分にできるのは、願いを叶えること。だから願ってくれさえすればいい。それしか自分には出来ない。
なのに、Aは首を横に振った。
「だから、言ったんだ…。契約を解除したらって」
「するわけないだろ!あんなッ……あんな、寂しいって顔されて、ほっとけるわけがない…」
悪魔が覗き込んでくるので、彼の紅い瞳が潤んでいるのが分かった。
悪魔なのに、人間みたいに優しいんだから。
ごめんね。そんな顔してたんだ。悪魔には随分気が緩んじゃっていたんだなぁ。なんて、ボーッと考える。
指先が冷たくなっている気がする。体も動かなくなってきた。力を入れることが出来ない。それを察したのか、悪魔がまた何度も名を呼ぶ。
「さいごに、お前の願いを教えて……?」
「そんなことより人を呼ばないとお前が――――!」
「お願い、悪魔」
悪魔の体が動かなくなった。願いを叶えるための魔力が身体中を駆け巡る。抗えない、願いを叶える悪魔としての運命。
「……お前は、酷いやつだ…」
「うん……ごめん」
グッと強く拳を握る。願いは叶えない。自分の願いを言うのは、自分の意思だ。Aの願いじゃない。そう思っていれば、Aの願いを叶えることができると思いたかったから。
「……俺は、愛されたかったんだ。人だろうと天使だろうと悪魔だろうと、何でも良かった。俺は愛を知らないから、誰かを愛したかったし、誰かに愛されたかった」
はるか昔から生きて、誰にも叶えられなかった悪魔の願い。誰にも察されないように悠久の時を生きた。
「愛されたかったの…?」
「ああ、ずっとな」
「そっか」
Aは笑った。話すのもやっと。もうあと数分しか持たないだろうと自分で察する。だからこそ、悪魔に向かって手を伸ばした。
最期だから、
きっと君に触れられるよね―――――?
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ルティン - はい!応援しています!また読みに来ますね! (2021年8月3日 18時) (レス) id: bdebe086bb (このIDを非表示/違反報告)
埋夜冬(プロフ) - ルティンさん» 嬉しい限りです!!この作品をこんなに好きになって下さりありがとうございます!これからもっと精進致しますのでよろしくお願いします! (2021年8月3日 16時) (レス) id: f9a8d8c7d5 (このIDを非表示/違反報告)
ルティン - この作品ほんとすごい!もう3回も読み返しています…!しかも期間を空けて!何度も読みたくなる、素晴らしい作品をありがとうございます!!これからも頑張ってくださいね!! (2021年8月3日 15時) (レス) id: bdebe086bb (このIDを非表示/違反報告)
埋夜冬(プロフ) - ゆきさん» うわぁぁ嬉しいお言葉ありがとうございます!!泣かせたかったので泣かせられたなら満足です(笑)最後までお読みくださりありがとうございました! (2020年7月11日 9時) (レス) id: f9a8d8c7d5 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - 一言いいですか?...神作者じゃないですか!?貴方様の小説最高すぎるんですよ?!思わず泣いちゃったじゃないですか!...以上、長文失礼致しました。 (2020年7月11日 9時) (レス) id: 1ca0293e4d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:埋夜冬 | 作成日時:2019年12月7日 8時