病室に咲く花に甘いキスを。【名前変換オリジナル】

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一ヶ月もたった頃

俺は毎週ここに通うようになった。

伊藤 花さんという女の子は、
歳は俺と同じ中3の14歳。

結構重い病気らしく、
小さいころから入院していたらしい。

しかし安静に過ごしていれば
大抵のことは自分でこなせるそうだ。


彼女はすごく明るい子で

今ハマっている手芸のこと
ときどき病室に迷い込んでくるおばあちゃんのこと
好きなアイドルのこと

たくさん、話してくれた。

普段はかなり喋るほうで聞き手にはまわらない俺でも
彼女の話はなんだかとてもキラキラしていて、
聞いていて飽きなかった。

今日は
『もし、退院できたらしたいこと。』


俺の母さん手作りのチョコチップクッキーを片手に
彼女はいつものように目を輝かせて言う。


「雑誌で何回も見てて、プリクラ？ってやつ。」

「うん、クラスの女子もしょっちゅうしてるよ。」

「私ね!! 一回でいいから中学生のうちに撮ってみたいの!!」


可愛いモデルが微笑んでいる表紙の雑誌を
俺に10冊程渡してくれた。

何回も読み返しているのか
ペラペラとページを慣れた手つきでめくって指さしていく。


「あとね！ レースがついたお洋服も着てみたいし、
　カフェってところでイチゴのショートケーキも食べてみたいな!!」

「へぇ、」

「それに、本物の猫を近くで見てみたい。」

「……え？」


猫くらい……。
とビックリした俺が聞き返すと

彼女は少しだけ
切なく微笑んでから


「えへへ、私まだ病院内から出たこと無いんだ。」

「……。」

「学校も、パジャマじゃない服も、猫も」


少し間をおき、軽く息を吸って


「……みんながしてる“恋愛”っていうのも、なーんにも知らないの。」


そう言った彼女の体が
もともと小さいのに更に小さく弱く見えた。

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