病室に咲く花に甘いキスを。【名前変換オリジナル】

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この春、姉ちゃんに脳腫瘍が見つかった。
この県で一番大きな総合病院に入院した姉ちゃん。

幸い良性で一ヵ月後位に手術をして
そのあと少々入院すれば退院できるそうだ。


「うん、そう。良性の脳腫瘍だってー。
　 大丈夫だよー、絶対生きて帰るからさ」


姉ちゃんは事の大きさが分かってないのか、
ケラケラと携帯ごしに友達と楽しそうに話している。


贅沢に独り部屋を選択してもらい
上機嫌な姉ちゃんは

只今絶賛弟パシリ中


「ったく、なんで俺が片付けなんか……」


メイク道具、音楽プレイヤー、
漫画の単行本、パソコン、そしてなぜか野球ボール。


「いらないもんばっかじゃん」

「いいの、私には必要なんだから」


いつのまにか姉ちゃんは会話を終了し
無料携帯ゲームアプリで遊んでいた。


「あー、翔太 そこの花瓶にそこにある花生けてきて」

「はいはい」


結構立派な花瓶を右手に、
何の花か分からないが蒼い花を左手に
俺は廊下を歩いた。

最寄の水道で足を止め、
花瓶の八分目位まで水をいれ花を生ける。

帰りは数人のナースさんに
「えらいわね」と声をかけられ
顔を赤くしながら姉ちゃんの病室まで急いだ。



「はい、バカ姉ちゃん。言われたとおり生けてきましたよー」


と、憎たらしさ全開の低い声を出し
姉ちゃんを挑発する。


「…え、あの……お花はもう、持ってます……」


…が、返ってきた声が姉ちゃんとは違った。

まるで春の花のようにやわらかで
ふんわりとした優しい声だった。

それに、姉ちゃんの病室とは違いほんわかいい匂いがする。


恥ずかしさのあまり見る見るうちに顔が熱くなる。
耳まで熱くなったところで
どうやら部屋を間違えたらしい、と気づき


「っ!! しっ、失礼しました!!」


と困惑する彼女に謝罪もせず全速力で廊下に出た。

引き戸の隣には[ 伊藤 花様 ]のプレート。


姉ちゃんの病室はその右隣だった。


俺、恥ずかしい人間になりました。

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