【キングダム】理由のないわたしたちは (ページ6)

今日:1 hit、昨日:2 hit、合計:11,237 hit

＊ページ6

「ここがAさんの部屋です。
隣には介億先生の部屋と、その他名君達の部屋があります。奥には…」
『待って、蒙恬』

「？はい」

それから間もなくして部屋にたどり着き、同じ屋敷内の人物達を教えてくれているのだろう。

が、会話が一向に頭に入ってこない。

『堅苦しいのは嫌いだから、
もっと楽にしてくれない？』

先程の感動をどうしてくれる。３歩近付いたかと思えば、２歩遠ざかった様な気分だ。

「だから出来ませんって」

『あんなに愛くるしかったのに…』

「それ、嬉しくないです。
王騎将軍が目に掛けていることには変わりないんですから」

『可愛い顔して頑ななんだね』

「その言葉そのままお返ししますよ」

先の見えぬ問答の中、蒙恬もそれを察したのか「それでは、Aと呼ばせていただきます。言葉遣いは無理です」とはっきりとこの問答を終わらせた。

「先程の続きを話しても？」

『うん、お願い』

「奥にある屋敷は昌平君の部屋があります。
軍事として彼の右に出る者はおらず、武将としては名を残してはおりませんが相当の手練れです。」

『…中央に居た人ね』

殿の書物を読んでも動揺を見せず、あの堂々とした佇まいだ。強き者が持つ“危うさ”も持ち合わせていたことから、とても印象に残っている。

「よかった、昌平君はご存知なんですね」

無知過ぎるわたしはこの城の“主”も知らぬのだろうと案じたらしいが、その心配は正解だ。

名前はおろか、先ほどの出来事が初見であった。

『流石にね』

これ以上蒙恬の呆れた顔は見たくないため、そのまま騙し通す様にそう答える。

「Aは嘘が下手ですね」

『…バレたか』

まだまだ聞きたいことは沢山あったが、先程〝介億先生〟と呼ばれていた者が戻らない蒙恬を心配し追いかけて来たようで、そこで話は遮られた。

「A、部屋で身支度はどのくらいかかりそうだ？」

『…？数分で終わると思います』

この場所に長く居続ける気はなかったため、適当な量の着物と殿へと文を出すための道具くらいしか持ち寄っていない筈なので、なんなら部屋に寄らなくても良いくらいだ。

「では準備が終わり次第、蒙恬と先程の広間へと戻りなさい」

『…分かりました』

何故、蒙恬と共に行動しなければいけないのかを疑問に思ったが、彼らなりの親切なのだろう。

不躾だと思い『ありがとうございます』と付け加え、広間へと戻る介億先生の背中を見送った。