【キングダム】理由のないわたしたちは (ページ2)

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episode1＊主side ページ2

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『たのもーーっ！！』

片足に力を込め扉を蹴り上げると、木の軋むような音が響き、視界には高そうな着物を着る者たちが大勢。

驚きと共に奇妙な目でわたしを見つめるその人らの表情を察し、殿に教わった挨拶はまたもや間違いだったのだと察する。

「なっ、何だ貴様はァ！！」
「敵軍じゃァ！！」

ひとりが叫ぶと同時に非難の声を挙げているが、普段殿や騰との演習に赴いているわたしにとっては小鳥のさえずりだ。

「ちょっ、Aさん…！」

馬車に乗りわたしをここまで連れてきてくれた、泣きぼくろを特徴としたその少年は、焦っているような行動を起こすがたるみきった表情筋でこちらへと走ってくる。

「先に行かないでくださいよ、もー…」

『…ごめん、少年』

「見てください。
皆さんドン引きです」

その言葉と共に辺りを見渡すも、硬直している者が多い。

だがその中で一際目立つ男たちも居るようだ。

『作法が分からず失礼した。
今日からお世話になる、Aと申す』

「挨拶は出来るのですね」

『基本は殿や騰から叩き込まれているからね』

少年の方を向きドヤ顔をして見せるが、「先程扉を開けるために飛び蹴りをした方とは思えません」なんて爽やかな笑顔で返される。

中々良い性格をしているとみた。

「お主、こちらへ。
蒙恬もご苦労だった」

一際目立つ集団の中心に座る長髪の男がわたしを呼び、目の前に座るよう促される。

わたしの隣には蒙恬、と呼ばれる先程の爽やかな少年が立つ。

わたしよりも幾つか年下に見えるその少年だが、動きや振る舞いから見て優秀なのであろう。皆から一際置かれているのがこの場にいると分かる。

「この娘が…、
王騎将軍直々の推薦人ですか」

『はい、この戦国の世を学びに参りました』

「蒙恬、文を」

殿が前日に嗜めていたであろう文を蒙恬がその男に渡せば、それを一読し流れるように隣に座る配下の者へと渡す。

それを読んだ１人はほくそ笑むように口角を挙げ、「わたしの隣の部屋が妥当ですかね」と何故か嬉しそうに話す。

「介億先生の…？！」

驚いたようにそう呟く蒙恬の後に続くように周りの者も騒めくが、わたしの目の前で座る長髪の人物だけは納得という感じだ。

全てが初体験のわたしにとっては騒めく理由も、目の前に座る人物の名さえ知らず、早く時間が過ぎることを祈るばかりだった。