[wrwrd]青に溶ける (ページ17)

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「態々『そう言う事』にならんように努力しとるん、俺知っとるよ」

ふとそんな事を言い出した、我が上司に当惑した。歩みは止めない。此方に視線を向けるのも、止めない。

「関わらへんようにしたのも、適当な仕事は全部処理してくれてんのも」

少し、体が強張った。此の人は周りを俯瞰して居るから、私は私が知っている以上に、此の人に知られているのだと、こう云う時に手痛い程に自覚する。

「その仕事を俺に回さへんようにしとるのも」

ちゃんと。

自分の肩がびくりと震えるのが解った。怒られてしまうだろうか。失望されてしまうだろうか。苦手な人間と関りを絶ち逃げる私を、人当たり良く居られるこの人は、如何見ているのだろう。

楽にいたいと仕事から逃げる割に、ここぞと云う時はその真価を発揮する彼から、対人関係でさえ楽をするためにさっさと見切りをつけ逃げる私は、如何目に映るのだろう。

何時の間にか私達は自分の執務室の扉の前まで来ていたようだった。

扉に手をかけて、鬱様は私の方を振り返って、そうしてから、何時もの笑顔でへらりと笑って見せた。

「逃げとかやない、其れでええんよ。やけどさ、俺にばっかり気使わんといて？こんなんやけど、屹度頼りになって見せるから」

「もっと楽にしてもええんやで」

男性の手が、頭を撫でる。細長い指に、少し冷たい温度。

優しい眼で笑うこの人が、女性から手を引かれない時がない訳も、何だかんだ言われながらも皆に慕われる訳も、知っている。

知って居ない訳がない。

短期間だと言えど、近くで見て来たんだから。

「……はい」

一寸微笑んだ。厭にならない程度に押し当てられた優しさが、何時もの仕事の具合を赦してしまいそうになるほど、その優しさを掛けられる度、嬉しくなる。

此の人が上司で、此の人の補佐官になれてよかったと、心から思えるから。

私の微笑を見届けてから、もう一度笑い直して、一撫でする。そして今度こそ扉を開ける。

満足そうな我が上司の横顔は、「こうして女を落してきたのかな」と思わせ、そんな事を考えて、性懲りも無くこの幹部は、と苦笑を零した。

別にそう言った好意を持つつもりは無いのでそう言う感情を抱く事は無いが、誰にでも彼にでもやるなよ、と言う感じだ。

感謝を伝えるには、もう時間が経ち過ぎてしまった。

こうしてまた、心の中に感謝が降り積もって行くのだと、そんな感じがした。

＊＊

よく解んない感じ