[wrwrd]青に溶ける (ページ16)

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「済まんな、うちのが。真面目な癖に勝気やねん」

「いやいや、うちのも悪かったわ。負けず嫌いやし喧嘩っ早いからな」

はっはっは、と適当に笑ってから、お決まりの軽口がノータイムで飛び出す。

「シッマみたいな奴やな」

「どつき回すぞ」

私が真面目かどうかは別にして、とちらりと我が上司を見遣る。何時ものふらふらの笑顔を浮かべている。

完全に毒気を抜かれた。

「……済みません。お手数おかけしました」

「いやいや、ほんまにええんやで。懸念込みでこっちに回してきたんやろ。其れ貸して」

コネシマ様は裏表のない顔でニッと笑うと、第一補佐官から書類を受け取り、挿んだ資料込みでさっと目を通した。

「ああ、成程な。この案件はウチで預かるわ。助かったで」

「いえ、此方こそ」

幹部様に恐れ多い。と頭を下げる。

「Aちゃん、ええんやで？シッマにや気使わんでも」

「お前はちっとは気ィ使えや」

じゃ、僕らは之で～、といつもの間延びした口調で、私の肩にするりと腕を回し、開けっ放しの扉から出て行った。仕事せぇよ～、と後ろから声が追って来るが、鬱様は例の如く黙殺した。

……また、だ。又、やってしまった。

余りに自然な動作で腕を回したままなのでするりと何時もの如く抜け出すと、「ああん」と残念そうな声を上げる。何時もなら此処で「そう言う事は好きな女性にして下さい」と言う処なのだが。

「……済みません。浅はかでした」

「ンー？何が？」

緩い口調。私の歩くペースに合わせてゆっくりと歩く。其の背を追いながら、決して隣には並ばない様に、言葉を重ねていく。

「ああして口論紛いの事をしてしまって」

「嗚呼、別にええよ。気が合わん奴位おるやろ？」

此の人は、本当に、優しすぎるのだ。俯瞰して居て、周りを見ているから、巧く気遣えてしまう。

「……ですが、不適切だったことには変わりありません。結局お手を煩わせてしまいました」

また、「巧く気遣わせてしまった」のだと言うやるせない恥ずかしさが心を覆っていく。こんな事では、何方が補佐されているのか判らない。

「真面目過ぎるで？もっと人頼らんと。僕はこういう事位しかできひんからな」

そう言ってにへらと、何時もの通り笑った。切なさに似た情けなさが、心に水滴の様に落ちる。此の人の補佐なのだ、私は。

其れが表情に出て居たのだろう、鬱様は笑って、私の眼をじッと見た。
少し、困惑した。