またあした ページ41
貴女side
なんだか眩しい真っ白な世界が、目の前に広がっていた。
いや、世界というより、空間のほうが近い。
なんにもない、ただ真っ白な空間に、ぬるま湯を揺蕩うように私は存在していた。
『…大丈夫だよって、言って…』
『だれか、Aをたすけて……』
その無機質な空間に、聞き覚えのある声が響いた。
嗚咽に邪魔されて聞き取りにくいけど、たしかにそう聞こえた。
「…まふくん」
自分の口からそんな言葉が飛び出す。
そしてその単語を脳内で繰り返した途端、とてつもない愛しさの感情で胸がいっぱいになる。
『守れなくて、ごめん…っ!!』
悲壮な彼の声に、愛しさと同じだけ、切なさがこみあげてきた。
ふと下を見下ろすと、見慣れない景色が広がっていた。
清潔そうな白いシーツのかかったベッドに横たわっている女のひと。
そしてその隣で、顔を手で覆って泣きじゃくる恋人らしき男のひと。
すぐに、私とまふくんだと思った。
近づこうと思って手を伸ばしても、震えている背中には届かなくて。
私は成す術もなく、自分がベッドに寝ているのを見ているという不思議な光景を見つめた。
「や…だよ、やめてまふくん、…泣かないで…」
いつのまにか私の両の瞳から、大粒の涙があふれてこぼれ落ちていた。
私は首を振りながら、まふくんと同じように顔を覆う。
ちがう、こんなの、私が望んだ未来じゃない。
私はただ、まふくんが、みんなが、幸せに生きていけるならそれでよかったのに。
嗚咽を漏らして、涙に暮れるまふくんなんて見たくないよ。
ねえ、お願いだから
もう、泣かないで…
______________
まふまふside
「…真冬くん、もうそろそろ閉院の時間なんだけど、大丈夫?」
看護師さんがハンカチを差し出してそう声をかけてくれた。
窓の外に視線を移すと、夕暮れ空に深い藍色が少し滲んできていた。
僕は差し出されたハンカチを受け取って、涙をぬぐいながら笑った。
「すみませ…年甲斐もなくこんな泣いてしまって…恥ずかしいなあ…」
「ううん、全然おかしなことじゃないよ。もう二年…か。
先生もAさんも、もちろん私たち看護師も全力を尽くすから。」
「だからきっと、真冬くんも頑張れるよ」と、看護師さんは目を細めた。
その笑顔にほんの少し落ち着きを取り戻して、僕はそっと立ち上がった。
最後にAの額にキスを落として、僕はもう何度目か分からない明日の約束をした。
「また明日ね、A」
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夕焼涙雫(プロフ) - 栗原 真白さん» 面白かったですよいー(*ゝω・*) (2018年9月23日 6時) (レス) id: 76522a65f0 (このIDを非表示/違反報告)
栗原 真白 - 夕焼涙雫さん» ほ、ほんとですか…?!嬉しいです、ありがとです…!! (2018年9月22日 19時) (レス) id: 0170d3c859 (このIDを非表示/違反報告)
栗原 真白 - Canpasuーキャンーさん» ありがとうございます(*>ω<*) (2018年9月22日 19時) (レス) id: 0170d3c859 (このIDを非表示/違反報告)
夕焼涙雫(プロフ) - 完結じゃー!時間がある時(=休日)に読み返そう (2018年9月20日 6時) (レス) id: 76522a65f0 (このIDを非表示/違反報告)
Canpasuーキャンー(プロフ) - 完結(?)お疲れさま!そらるさんの次回作、楽しみにしてるよ! (2018年9月19日 20時) (レス) id: 1cab1691ff (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:青瀬真白 | 作成日時:2018年6月26日 6時