大人 ページ30
帰り道。今日は折原さんがお酒を飲んでいるので、二人で電車に乗って帰る事になった。
折原さんは今日もスーツケースを持ってきていたので、駅のちょっとした段差や階段も大変だろうと思って、ちょっと遠回りにはなるけれど、ホームまでの移動は全部エレベーターで移動した。
「へえーこんな所にエレベーターあったんか」
『分かり辛い場所にありますよね』
改札階からホームへ向かうエレベーターは知る人ぞ知る場所にあるため、利用者は少ない。
ざわめく構内の中で、このエレベーター前だけは静かで、まるで別空間のようだ。
「…Aちゃんはさ、」
『…？』
「その、彼氏とかおらんの…？」
不意に破られた沈黙と、折原さんの質問に、私は目をぱちくりさせるしかない。質問の意味を理解するのに時間がかかって、無意識に折原さんを見つめていると、じわじわと折原さんの頬が紅く染まっていくのが分かった。
「っ…！やっぱ今のナシで…！」
『えっ…えっと…彼氏はいませんし、いた事もありません………』
どういう意図で折原さんが私に彼氏の有無を聞いたのかは分からないけれど、無視をするのも悪いと思って、恥ずかしながら素直に答えた。
すると、そっぽを向きかけていた折原さんが勢いよく私の方に顔を向け直した。
「え？！ほんまに？！」
『は、はい』
「…Aちゃんって女子校出身？」
『高校だけ女子校でした。大学は共学です』
「彼氏作ろーとか思わへんの？」
『…同世代の男子のノリについていけなくて』
大学生になったばかりのタイミングで参加した様々なサークルの新歓飲み会のノリが怖くて、サークルに入る事を断念した。
学部内でも飲み会はあるらしいが、学部の女子は瑠璃みたいに可愛い子ばかりなので、引け目を感じて何回か断っていたら、誘われなくなっていった。
「確かに僕も大学生の時が一番イキってた気ぃするわ」
『折原さんもですか？』
今はとてもスマートで落ち着いている折原さんがイキっている姿が想像できず、思わず聞き返してしまう。
「んふふ、想像できない？」
『はい…』
「Aちゃんにそう思ってもらえてるなら嬉しいなぁ」
ニコニコと笑う折原さんの表情は、同世代の男子のようなガツガツとした感じがない、余裕を持った大人のものだった。
(格好良いなぁ…)
私もあと数年経てば、この人に並び立てる位の大人になれるのだろうか。
この時、初めて私は「早く大人になりたい」と強く願ったのだった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 3278人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
紫苑(プロフ) - リリトさん» リリトさん、コメントありがとうございます！ そんな偶然があるんですね？！自分で名前を設定しておきながら驚きました笑 (2020年11月9日 19時) (
レス) id: 25868fbf10 (このIDを非表示/違反報告)
リリト - 漢字は違うけど、本名同じ人おったｗｗ (2020年10月22日 17時) (レス) id: 5c9bfe90e0 (このIDを非表示/違反報告)
紫苑(プロフ) - ひよりんさん» こんばんは。メッセージを返信させて頂きましたので、ご確認頂ければ幸いです。 (2020年8月22日 0時) (レス) id: 25868fbf10 (このIDを非表示/違反報告)
ひよりん(プロフ) - こんにちは。メッセージ送らせていただいたので、見ていただければ幸いです。 (2020年8月21日 21時) (レス) id: 222226e292 (このIDを非表示/違反報告)
紫苑(プロフ) - センラさん推しさん» センラさん推しさん、コメントありがとうございます！ 神様だなんて畏れ多いです…！ですがありがとうございます、嬉しいです。 これからも頑張りますね！ (2020年3月18日 22時) (レス) id: 25868fbf10 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：紫苑
| 作成日時：2019年11月1日 18時
