降服せよ。 ページ41
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鬼気迫る怒気をまとった彼と、平等院。大きな爆弾同士が全面的にぶつかるかと思われた矢先。
「――やめておけ」
その人物は、平等院とAの間に堂々と割り込み――Aの突き刺すような殺気をものともせずに彼の右腕を片手で握って止め、もう片手のラケットで空中のボールをはたき落とした。
「――やめておけ」
その人物は――鬼は、低く繰り返す。腕を掴まれたAはフーフーと唸りながら拘束から逃れようともがいている。血走った目では平等院から逸らさない。理性を失った獣、むき出しの殺気に、周りの者は何度目かの息を呑む。
しかし鬼は、Aに呼びかける。
「気持ちはわかるが、冷静になれ。その状態で勝てる相手じゃないだろう――」
ぐ、と掴んだ腕に力が籠められると、Aは顔をしかめて、鬼を睨み上げた。
「さっき、無茶な体勢で球を受けただろう。ケアをしないと手首を痛めるぞ。……医務室にはお前の片割れがいる、様子を見に行かなくていいのか?」
先ほどの平等院の打球は、いわゆる“光る球”ではなかった。Aを焚きつけるための、小手調べにすらならない球だった――しかし、軌道を防ぐために無理矢理に割って入り、不十分な姿勢で打ち返したものだから、いらぬ負荷がかかっているであろうことは明白だった。
そして。
一戦目ののち、酷使した腕の手当てを含めて運ばれた仁王を指して。片割れ、と。
「…………クソ」
チッと大きな舌打ちを落として、Aは鬼の手を振り払う。今度は、大した抵抗もなしにぱっと手は解放された。瞳孔の開かれた目は平等院に固定されたまま、しかしAは、素直にコートに背を向ける。自然と群衆は左右に分かれ、道を作った。
「なんのつもりだ……」
残されたコートで、不機嫌を隠さずに平等院が言った。彼からしてみれば、せっかく煽って対戦の場に引きずり出してきた格好の獲物を前にお預けを食らったようなものなのだろう。
「そんなに試合がしたければ、俺が相手をしてやるわ」
「フン……いつまでたっても生ぬるい……」
平等院とAの全面衝突は避けられたものの――新たな火蓋が切って落とされる。
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角砂糖(プロフ) - 美琴さん» ありがとうございます!!(大声) (2020年3月11日 19時) (レス) id: 651af228bd (このIDを非表示/違反報告)
美琴 - 好きです(突然の告白) (2020年3月9日 20時) (レス) id: 0419c563a9 (このIDを非表示/違反報告)
角砂糖(プロフ) - 蘇芳さん» この作品を愛していただき本当にありがとうございます。この話の続編は、今の所はあまり考えていません。今非常に私生活が忙しく、それが一段落したら何か書きたいなとは思っていますので、いつになるかわかりませんが、もし気が向けばお付き合いいただけると幸いです。 (2020年1月30日 4時) (レス) id: 651af228bd (このIDを非表示/違反報告)
蘇芳(プロフ) - とても面白くて一気に読んでしまいました!もしもあるのなら続編楽しみにしています。これからも頑張ってください! (2020年1月24日 20時) (レス) id: ec6c109e68 (このIDを非表示/違反報告)
ピット☆(プロフ) - 角砂糖さん» そうです!覚えていてもらえて嬉しいです!!予定があるかはわかりませんが次の作品をお待ちしてます! (2019年11月20日 1時) (レス) id: f631e9f6d4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:角砂糖 | 作成日時:2019年3月18日 21時