ヘリオトロープ ??? ページ20
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さて、このAA部活強制参加令、意外にも彼は拒まずに守っていた。不機嫌さを隠そうともしない、凶悪な顔と不遜な態度で、しかししっかりと練習に参加していたのだった。彼は本来、特に理由もなく反抗をするような性格ではない――元来のサボり癖はともかく、言い聞かせれば基本的には従う。この頃の彼は、要するにヤケクソを起こしていたようなものなのだ。あるいは、他人とかかわることへの怯えとも言える。他人に存在を拒絶されることへの恐れ、怯え。彼をさっぱり消し去った母親と同じように。
まあそれはさておきその結果、彼の頭ひとつ――否、ふたつみっつ飛びぬけた実力と才能が、部内に広まることになる。
その破天荒なプレイスタイルを、皆がじっくりと目にすることになる。
「……なんだあれ」
と誰かが呟いた。
基礎も基本動作も、何もかもを無視した独特の動き。自分のスタイルとペースを乱さないそれは、指導をまるっきり無視しているのと同義だ。そんな意図がなくたって、これでもかと反感を買う。
「…………」
彼は一週間ほどの間、無遅刻無欠席で部活動に参加した。――が、皮肉なことに、集団の中にいればいるほど、彼は孤立をするのだ。
「…………」
その背を、ただひとりの少年だけが見つめていた。
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「――Aくん」
と、そんな風に、彼はAに声をかけたのだった。走り込みを終えた休憩時間のことである。
桜もとうに散った晩春、容赦なく夏という季節はやってくる。もう、激しい運動をしていれば、うっすらどころではない汗をかく季節だ。
「AAくん。きみテニス強いよねえ」
「あ?」
被ったタオルの下、汗で額に張り付き乱れた金の前髪の下から、ギロリと効果音が付きそうなほど鋭く瞳がきらめく。それをものともせずに、彼はにっこりと笑った。
「この前のトーナメントでも勝ち残っていたもんね。さすが」
「……なんだよ」
Aの目は訝し気な色を湛えたまま、彼を見遣る。突然に脈絡もなく話しかけてきた人物を警戒しているようだ。
「……トーナメントで勝ち残ったのは、テメェもだろうが」
「わあ、覚えてたの。じゃあ話が早いや」
彼は、少年は、中世的な幼く可愛らしい顔で、にっこりと笑って右手を差し出してきたのだった。
「俺は幸村精市。ねえAくん、俺とダブルスペアを組んでくれないかな?」
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角砂糖(プロフ) - 美琴さん» ありがとうございます!!(大声) (2020年3月11日 19時) (レス) id: 651af228bd (このIDを非表示/違反報告)
美琴 - 好きです(突然の告白) (2020年3月9日 20時) (レス) id: 0419c563a9 (このIDを非表示/違反報告)
角砂糖(プロフ) - 蘇芳さん» この作品を愛していただき本当にありがとうございます。この話の続編は、今の所はあまり考えていません。今非常に私生活が忙しく、それが一段落したら何か書きたいなとは思っていますので、いつになるかわかりませんが、もし気が向けばお付き合いいただけると幸いです。 (2020年1月30日 4時) (レス) id: 651af228bd (このIDを非表示/違反報告)
蘇芳(プロフ) - とても面白くて一気に読んでしまいました!もしもあるのなら続編楽しみにしています。これからも頑張ってください! (2020年1月24日 20時) (レス) id: ec6c109e68 (このIDを非表示/違反報告)
ピット☆(プロフ) - 角砂糖さん» そうです!覚えていてもらえて嬉しいです!!予定があるかはわかりませんが次の作品をお待ちしてます! (2019年11月20日 1時) (レス) id: f631e9f6d4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:角砂糖 | 作成日時:2019年3月18日 21時