耳もとで歌わせて（赤） 2

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えっ？て顔で久しぶりに俺を見てくれたAちゃん



｢誰にでもええ顔して｣

｢そりゃ俺より長瀬さんの方がええわな｣

｢かっこええ上に出世頭やもんな｣

｢俺ん事は黒歴史にしかならへんか｣

｢俺と同期以上に思われると困るもんな｣

｢もう声もかけられるんいやか｣



あかん止まらへん


こんなん振られた男の八つ当たりやん

情けないけど

Aちゃん攻撃しとらな泣きそうや



｢すばるくん？｣



｢俺帰るわ｣

｢バイバイ｣

｢Aさん｣



｢すばるくん！｣



｢名前でなんか呼ばんとって｣



捨て台詞のように口走って

そのまんま背を向けた


誰かと一緒おるんも辛いくせに

家に帰って一人なるんも辛くて

マスターのBARに行って

普段は飲まへん濃いめのバーボンを煽った


マスターは何か言いたげやったけど

黙ったまんま

小さな小さな音で俺の好きな曲をならしてくれた


明日も仕事やし

気持ちはおちたまんまやけど

終電に間に合うようにBARを出る



｢寒っ｣



思わず声が出る


あの夏の暑い日は夢やったんかもしれんな

そんなふうに思えたら楽やのに

なんてあほな事考えながら電車に揺られていた


真っ暗で何も見えへん窓にぼんやり視線を向けてたら

ポツポツと雨粒が当たって

傘無いのになぁ

濡れたら寒くて風邪ひいてまうかもな

Aちゃんはやっぱ鞄から折りたたみの傘出してくんのかな…

って

ほんま自分の女々しさがイヤになるわ


エアコンのきいた電車から降りると余計に寒く感じて

首をすくめて

雨は少し弱まって霧雨んなった中

ちょっとだけ小走りで家に向う


外套の切れた暗がり

外階段横に人影があって

一瞬ぎくっとしたけど

そこ通らへんと家に入られへんし

下向いて目ぇ合わさへんように

横をすり抜ける



｢すばっ…渋谷くん｣



突然かけられた声はAちゃんのもんで

何でここにおんの？ってびっくりしたけど

今口開いたらまた傷つけてまいそうで

黙ったまんま階段を上がる

Aちゃんは俺の後をついて上がってきて

鍵開けてる俺に向かって



｢ねぇ私何かした？｣

｢渋谷くんが嫌な事した？｣



って聞いてくるから



｢自分で分からへんってことは
何もしとらんのちゃう？｣



それだけ言うとAちゃんに背中を向けて部屋に入る

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