記憶 /nk ページ7
驚く程に、静かだった。
今でも思い出す高校二年の夏の話
.
「おい、」
その声で私は目が覚めた。
壁についた時計は、6時半を指してた。
『ん…ん、二宮くん』
「二宮くん、じゃなくて。」
「何してんのお前。」
教室の、窓際一番後ろの席
机の上には解きかけの問題集
『...気付いたら、寝ちゃってたみたい』
「お前、俺が起こさなかったらどうしてたんだよ」
部活帰り、みたいだった。部活の鞄を肩から掛けた二宮くんは、私の前の椅子に後ろ向きで座って私を見つめる。
『そのまま閉じ込められてたかも、(笑)』
『二宮くんはなんで教室来たの？』
「いや、別に」
「忘れ物取りに来ただけ」
『へえ、そっか』
静かな教室に、二人の話し声だけが響く。
こう見ると二宮くんって、凄く綺麗な顔。普段顔なんてじっくり見ないから気付かなかった。
「…なに、」
『え？』
「なんでそんなこっち見てんの」
「タイプ？顔」
『…自分で言うの？』
『タイプ、って言うかただ綺麗な顔だなって』
丸くて大きな目に、真っ白なもち肌。
それにぷるぷるの唇。
「へえ、すげえ素直。」
『っ、うるさい』
「お前こそ、綺麗な顔じゃん。」
『………は、』
「は、って。(笑)」
私の反応を見た彼は、口元を手で覆って可愛く笑った。二宮くん、普段こんな笑い方するんだ。
「ほら、その目とか」
『ちょ、っと。お世辞なら要らない』
「ニキビ全然ない肌とか」
『っ、』
その時突然、二宮くんの白い手が私の頬に触れた。
何やってるの、って抵抗したいのになんだか魔法を掛けられたみたいに動けない。
「高い鼻とか、」
『……』
「ぷるぷるの唇、とか」
彼の親指が、私の唇をなぞった。恥ずかしくて目を逸らしたいのに、その手を今すぐにでも退かしたいのに。
「いいじゃん。」
二宮くんがもう一度笑ったのは、一瞬だった。次の瞬間には、椅子の動く音が教室に響いて、
彼の唇と私の唇は、重なってた。
『んっ…！』
一瞬、だったのに。いや、
一瞬、だったから。
私はこの人を好きになったのかもしれない。
好きになってしまったのかもしれない。
私の、ファーストキスの記憶。
.
「おい、」
「お前早く起きねえとキスすんぞ」
夢と現実の狭間で、彼の声が響く。
私達はあの頃から何も変わってない。
ただひとつだけ変わったことは、二人の左手の薬指にはめられたシルバーリング。ただ、それだけ。
end.
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ウタ(プロフ) - 愛梨さん» ありがとうございます！とても嬉しいです。励みになります。これからもマイペースに頑張ります！ (2020年1月5日 18時) (
レス) id: 2132398f2b (このIDを非表示/違反報告)
愛梨 - はじめまして。どのお話もとーっても面白くて大好きです。更新大変だとは思いますが頑張ってください。応援してます。 (2020年1月5日 14時) (レス) id: f7e12740e2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ウタ | 作成日時：2019年1月31日 21時
