検索窓
今日:2 hit、昨日:2 hit、合計:13,940 hit

夏恋 /ss ページ18

ドキュン、って。私はあの日恋に堕ちた。
一年前の七月の始め。この古いアパートでひそひそと生きてた私に、



「隣の203号室に引っ越してきた櫻井です。」



って、近所の美味しいケーキ屋さんのモンブランを持ってきてくれた彼に私は、一瞬で恋に堕ちた。



「おはよう、Aちゃん」

『あ…、おはようございます、櫻井さん』



彼がお隣さんになってもう一年。二度目の夏が訪れようとしていた。二つ歳上の彼が、いつの間にか敬語からタメ口に変わったのは、私の中では少しの進歩だったのだ。



「…、どっか、行くの?」

『え、あ…高校の同級生と久し振りにランチです』

「ああそうなんだ。」

「...男?」



櫻井さんの予想外の言葉に驚いて、私は思わず俯いていた顔を上げる。そこには少し照れたように頭を搔く彼がいた。



「あ、いや…ごめん。」

「いつもより…その、可愛かったからさ」



気不味くなったのか慌てて目線を逸らした櫻井さんから、ふわっと甘い香り。あ、これ櫻井さんの香水の匂いだ。



『え…あ、いや、女友達です。』

『男の子と交流あるように見えますか? (笑)』

「いや...あんまり(笑)」

「そっかそっか。ちょっと安心した。」



安心、なんて言葉。勘違いしちゃいそう。



『からかってますよね、私があまりにも男っ気無いからって!』

「ふ、違ぇよ。からかってなんか無い(笑)」



目尻を下げて優しく笑った櫻井さんは、片手で自分の部屋の鍵を開けた。



「引き止めちゃってごめんね」

『あ、いえ...私は全然』

「俺は家でのんびりしてるよ (笑)」

「……あ、」



中に入ろうとした櫻井さんの足が止まる。そして、何かを思い出したような顔で私を見つめて、



「あのさ、良かったらなんだけど」



ほら、またふわっと香水の香り。



「明日、うちにケーキでも食べに来ねえ?」



ドキュン、って。あの時と同じ、また恋に堕ちる音がした。
櫻井さんの左手には、あの日の美味しいケーキ屋さんの箱。モンブランもあるけど、って付け足した彼は、夏の太陽にも負けない笑顔で笑った。



『えっと...是非。』

「はは、よかった。じゃあ明日待ってる」

『はい!』

「ランチ、楽しんできて」



ひらひらと揺れた手のひらが扉の向こうに消えていくのを、私はぼうっと見ていた。いつぶりの、恋だろうか。古いアパートの廊下には、ただ甘い彼の香水の香りだけが残った。


end.

甘い罠 /nk→←雪解け /am



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.8/10 (30 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
39人がお気に入り
設定タグ: , 相葉雅紀 , 短編集   
作品ジャンル:恋愛
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

ウタ(プロフ) - 愛梨さん» ありがとうございます!とても嬉しいです。励みになります。これからもマイペースに頑張ります! (2020年1月5日 18時) (レス) id: 2132398f2b (このIDを非表示/違反報告)
愛梨 - はじめまして。どのお話もとーっても面白くて大好きです。更新大変だとは思いますが頑張ってください。応援してます。 (2020年1月5日 14時) (レス) id: f7e12740e2 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:ウタ | 作成日時:2019年1月31日 21時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。