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『…そっか』
「うん」
気の利いた言葉なんて掛けられなかった。彼を慰める程、私の気持ちに余裕なんて無くて。でも、彼の気持ちは痛いほど分かってしまう。
だからこそ、何も、言えなかった。
「上まで送ってくよ。」
『え、いや、ここまでで大丈夫だよ』
「送らせて。お願い」
決して綺麗とは言えないマンション
消えかかった電球の下を通って、二人でエレベーターに乗り込む。
二人とも、何も話さなかった。ただ階数だけが上がっていく。
5…6…7…
私の部屋のある9階まであと2階。そんな時に、私の視界は突然暗くなった。
「ん、」
松本くんとの初めてのキスは、なんの愛もない、苦しい、苦しいキスでした。
ガシャン、と荒々しくエレベーターが止まって二人で何も言わずに外へ出た。
確かに私の鍵を開ける手は震えてたし、中に入って玄関の扉に押し付けられながらしたキスも、ベッドの上で荒々しく抱き合ったときも、甘く私の名前を呼ぶ彼の声にも、ドキドキしていなかったと言えば嘘になる。
でも、一つだけ分かることは、
そこに愛なんてものは一つも無かったってこと。
『松本くん』
「ん、？」
私のベッドの上でスマホを見つめる彼に、私はそっと告げる。
『私ね、松本くんが好きだったよ』
彼は、何も言わなかった。
ただ、静かに私の頭を撫でた。
今でも、私には松本くんの気持ちは分からない。
片想いの寂しさを、私で埋めようとしたのか、私の気持ちを知ってて抱いたのか、少しでも、私に揺らいでくれたのか。
「じゃあ、俺帰るわ」
『…うん』
『あ、エレベーターまで送ってく』
「別にいいのに (笑)」
ドアを開けるとすっかり朝になってた。雨は、まだ止んでいない。
『じゃあ、ね』
『また月曜日』
「うん、また。」
それが、彼との最後の会話
突然会社を辞めて、家も引っ越したらしい彼は、二年経った今でも私の前には居ない。
大好き、だった。
一夜の記憶は、今でも私の脳裏に染み付いて、私をいっそう苦しめる。
「今夜、飲みにでも行くか」
『いい、ですね』
櫻井さんの優しさに引き止められながら、
私は今日も、強く生きる。
どこかで生きてる貴方を想い、
私は今日も、強く生きる。
私の願いはただ一つ
どうか、貴方が幸せでありますように。
end.
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ウタ(プロフ) - 愛梨さん» ありがとうございます！とても嬉しいです。励みになります。これからもマイペースに頑張ります！ (2020年1月5日 18時) (
レス) id: 2132398f2b (このIDを非表示/違反報告)
愛梨 - はじめまして。どのお話もとーっても面白くて大好きです。更新大変だとは思いますが頑張ってください。応援してます。 (2020年1月5日 14時) (レス) id: f7e12740e2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ウタ | 作成日時：2019年1月31日 21時
