やめたら、その3 ページ9
「!!.......おいAッ!」
土方十四郎は手を伸ばし妹の名を叫んだ。
走り出す前に妹が見せた今にも泣きそうな顔が頭から離れなかった。
恨まれる事の多いこの仕事で、最も弱味になるのは家族の存在だと思っていた。
妹の存在を、己を恨む相手に知られて傷付くのは妹だ、人質だとか腹癒せだとか、手段を選ばない賊は山ほどいる。
だから放った拒絶は、当然のように妹を傷付けたのだろう。
己の手の先に見える随分遠くなった妹背中に、悔しさを覚え強く掌を握り締めた。
「A、様子がおかしかったアル。アイツ言ってたネ、『お兄ちゃんは、もう私の事嫌いになってるかもしれないんだ。嫌われても仕方がない事をしたから』って、覚悟はできてるって、そう言ったアル。だから、Aが逃げたのには、別の理由があるんじゃねーアルか.......?」
神楽は坂田銀時に訴えかけて、Aを追うように言っている。
志村新八も奴もそのつもりだったのか、Aのあとを追い走り出した。
土方十四郎は何も出来ずにただ妹の最後に見せた顔を反芻していた。
別の理由なんて、あるのだろうか、妹は弱かった。
身体能力は高いし覚えも早い。肉体的には幼い頃の総悟と互角の強さを持っていた。
しかし、心の方はてんで弱く、よく泣く娘だった。
また妹は泣いているのだろうか、兄の所為で。
「土方さん、なんの騒ぎですかぃ?今しがた女と旦那達がすごいスピードで追っかけっこしてましたぜ」
妹が走り去った方向から総悟の声がした。
「なにしてんでさぁ、あんたらしくもない」
総悟は俯く土方十四郎の様子を伺いながら近付く。
「.......妹が、Aが帰ってきた。お前が見た走ってる女は、Aだ」
低い声で答え、煙草に火をつけ吸い込むと、総悟に背を向け屯所の方角へ踏み出す。
「帰ってきたって.......、Aがですかぃ?なんでぃ今になって.......。
おい、どこ行くんです。てめぇの妹でしょう。追わなくていいんですかぃ?」
もう一歩を踏み出し、歩き出す。
妹一人も笑わすことのできない男だ。
『嫌いになってるかもしれないんだ。嫌われても仕方がない事をしたから』
忘れた事など一度もなかった、嫌いになったことなど、
嫌われても仕方がないのは、俺の方だ。
背中から総悟の溜息が聞こえた。
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さくらんぼ☆*.゚︎ - 初コメ失礼します!このお話 最高です!続き気になります!更新頑張ってくださいね!!応援してます! (2022年12月12日 0時) (レス) id: def3760315 (このIDを非表示/違反報告)
薄良(プロフ) - お餅さん» うわあああ申し訳ねぇ.......細かい設定を忘れ去っていました。普通に主人公の年齢と合いませんね.......細かい年齢表記削除しておきますありがとうございます (2020年2月20日 0時) (レス) id: 38546ea573 (このIDを非表示/違反報告)
お餅 - あの…総悟が5歳のときって土方さんいましたっけ?土方さんが来たのって総悟が13くらいのときじゃありませんでした?違ったらすみません (2020年2月19日 18時) (レス) id: 436e739fd5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:薄良 | 作成日時:2019年5月6日 0時