可惜時を振り切って−�� ページ17
あの男が僕に何をしたのか、忘れた訳じゃない。むしろ鮮明に思い出して身体が震えてしまう程に、脳にも身体にも焼き付いている。
けど今僕らの生殺与奪の権を握るのは、コイツだ。
――大丈夫。
何も恐怖に屈して頷いた訳じゃない。猫の額程度の希望に、考えなしにすがった訳じゃない。
(あの人達が来るまでの、辛抱だ――！)
時間が稼げれば十分だった。先に灰原ちゃんだけでも安全圏に逃がせれば、あとは彼らに任せられると安心出来た。
「…あァ、分かったよ。シェリーは見逃してあげよう」
アルマが銃を下ろした。今しばらくは本当に危害を加えるつもりは無いのか、静観に徹している。
「…ダメ、遥斗さん…だって貴方、」
「灰原ちゃん」
体力が回復して立ち上がれば、彼女は今にも泣きそうなカオで近寄った。放っておけば、僕が手放した銃を手に取ってアルマに反撃してしまいそうだったので、彼女の名を呼んで首を横に振った。
「――僕なら大丈夫」
ドクドクと血管が脈打つと同時に血の溢れる右手の様子からは、僕の言葉は虚偽だと断定されても仕方がなかっただろう。でも出来るだけいつも通りを努めて、諭すように笑った。
「でも、」
「君は、僕がウソを吐くような人間に見えるのかい？」
本当は大嘘吐きだ。本物の希望が無ければ、世を儚みそうなくらい恐怖に勝てない。大丈夫な訳が無い。
だから希望にすがって、今一番守りたい人を恐怖から遠ざけたい。
お願いだから、今は。
「…違うだろ？」
どうか、僕のウソはきいてくれ。
大丈夫、きっとまた後で会えるさ。
ヒーロー達が助けに来るんだから。
「――っ！」
僕の下手くそな破顔に、彼女は黙り込んでしまった。無理矢理彼女の意見を封殺してしまったことに情けなく思いつつ、部屋の出口に顔を向ける。
「行って、灰原ちゃん。…出来るだけ遠くに」
最期のお別れじゃないだろうに、しおらしくもそれらしいものになってしまった。
灰原ちゃんは口の開閉を繰り返していたが、やがて僕の魂胆に気付いて乗ったのか、嫌々ながらも頷いた。彼女は僕に背を向け、後ろ髪を引かれる思いを断ち切るように、一目散に扉へ向かう。
(ごめんな)
内心謝罪をしたが、口に出すのははばかられた。
代わりに過去の彼女とのやりとりを思い出した。
『貴方、いつもそうね』
『"ごめん"を"ありがとう"にして』
「――ありがと」
ドアノブに手をかけた彼女の動きが一瞬だけ止まった。
けど顔は隠されたまま、彼女は行ってしまった。
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想世(プロフ) - みそらーめんさん» コメントありがとうございます。元ネタはとあるボカロ曲ですね。応援もありがたいです、色々と落ち着いたら更新頑張りたいと思います。 (2023年1月22日 9時) (
レス) @page46 id: 7931d7abb1 (このIDを非表示/違反報告)
みそらーめん - 元ネタの元ネタが人間失格、、、！何となく分かるような、、、？この作品、大好きです。体には気をつけて更新頑張ってください。 (2023年1月22日 8時) (レス) @page47 id: c05dcaa337 (このIDを非表示/違反報告)
想世(プロフ) - 早桃さん» コメントありがとうございます。気に入って頂けたのなら何よりです。これからも更新頑張らせて頂きます。 (2022年12月18日 18時) (レス) id: 7931d7abb1 (このIDを非表示/違反報告)
早桃 - やばいめっちゃ好き、、、！面白すぎて一気に読んじゃいました！！独特な世界観が個人的にツボです笑 これからも無理せずに更新頑張って下さい！応援してますぅぅぅ！大好き！ (2022年12月18日 17時) (レス) id: f9af42ef58 (このIDを非表示/違反報告)
想世(プロフ) - せいあさん» 再度コメントありがとうございます。自分でも驚きですが、名残惜しくも次作で本編完結となります。どうぞ最後まで楽しんで頂けると幸いです。 (2022年12月1日 21時) (レス) id: 7931d7abb1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：想世 | 作成日時：2022年12月1日 18時
