虚空ひとつめ。 ページ18
*
中学の頃、一度だけ電車の中で痴漢に遭遇したことがある。
いつかは覚えていないが、確か季節は冬。
けっこう寒く、肌着を多く着こみ、マフラーをしていた事は覚えていた。
被害者の顔も、加害者の顔も。明瞭には思い出せないくらい、薄れた記憶の中。
ただ、そんな中。忘れたくても頭から離れない奴がいた。
その時のソイツの表情、台詞、態度。どれも鮮明に思い出せる。
人が割といた電車内に、女の特有であるソプラノの悲鳴が車内に響く。
それと同時に華麗に吹っ飛んだ男の体。
俺は一瞬の事に目を見張り、当然そちらを凝視した。
刹那的に見えたのは、平然と車内で男にドロップキックをかました、黒いセーラー服の女。
濡れ羽色の二つ括りに結った髪が空中に揺蕩う様。
挑戦的に嗤う唇、瞳は紅玉の様に
大きく翻った黒いスカートから伸びる、すらりと綺麗な脚。
……それと視界を彩る鮮やかな白。
「……！」
その瞬間。
加害者を捉えていた瞳は、俺の瞳と見つめ合う。
気まずくて俺はすぐに目を逸らしてしまった。
んふふ、と独特な笑い声が聞こえたような気がする。
ソイツはドロップキックの体勢から、すぐに体制を立て直し、男の前に立つ。
顔は笑みを浮かべているが、無機物を見るような瞳からは感情というモノは感じられなかった。
「はーい、冤罪だと逃げられない為に！証拠もばっちり押さえてますよ。観念してくださいね」
ただ、それは一瞬の事で片手に持ったスマホを傾け、笑う姿は新しい玩具を貰った子供みたいに純粋な雰囲気を醸し出している。しかし、瞳の奥には何処かドロドロとした感情が見え隠れしていた。
余りにアンバランスなソイツの表情は不思議と目が離せなくて。
一瞬。ほんの刹那の出来事だったのだが。俺の脳裏に、こびり付いてしまった。
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はむ(プロフ) - 言葉選びが好きです、 (2021年8月26日 0時) (
レス) id: 9bb4746f4d (このIDを非表示/違反報告)
白雨(プロフ) - 莉兎さん» 私の小説で楽しんでいただけて何よりです〜！！更新遅いですがコツコツ頑張っていくのでよろしくお願いします(｀・ω・´) (2018年7月22日 3時) (レス) id: 1bdc6616c8 (このIDを非表示/違反報告)
莉兎 - 凄い続き気になります、、、！めっちゃ楽しい(((o(*ﾟ∀ﾟ*)o)))、、！ (2018年7月10日 22時) (レス) id: 8e6cda3aa7 (このIDを非表示/違反報告)
白雨(プロフ) - 血華さん» わーっ！これからもドキドキできるような小説を書けるように精進します！応援、ありがとうございます〜！ (2018年4月4日 5時) (レス) id: 1bdc6616c8 (このIDを非表示/違反報告)
血華 - 凄く面白かったです！読んでいてドキドキしました！これからも応援してます！ (2018年3月31日 1時) (レス) id: d91252218e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：白雨 | 作成日時：2016年8月17日 9時
